『トゥギャザー』は“ボディホラー”の新たな地平 恋愛映画としての完成度の高さに慄く

『トゥギャザー』はボディホラーの新たな地平

 第97回アカデミー賞の作品賞に『サブスタンス』がノミネートされたことで、「ボディホラー」というジャンルにまた注目が向けられているように感じる。そんな中、2月6日に公開されるマイケル・シャンクス監督の映画『トゥギャザー』は、また一風変わったユニークな魅力に溢れるボディホラー作品であり、類稀なる恋愛映画だ。

 長年連れ添ったカップルが、住み慣れた都会から田舎に引っ越し、家の近くをハイキングしている最中に不気味な地下洞窟に足を踏み入れてしまう。その後、なんだか身体に異変が……というサマリーの本作。この情報だけで洞窟がなんだか恐ろしい場所なのだろうとか、「うわっ、くっついちゃうってどういうこと?」と恐怖ポイントが想像しやすいのだが、本作における本当の怖さは“長年連れ添ったカップルが引っ越す”部分の詳細にある。

 なんといったって、その引っ越しとはアラフォーの小学校教師の彼女(ミリー/アリソン・ブリー)の仕事の都合によるもので、アラフォーのミュージシャン“志望”のほぼヒモ彼氏(ティム/デイヴ・フランコ)はただ、とりあえずついてくる(しかも引っ越し直前に友達の前で彼女からサプライズプロポーズされて、何も言えずに場を白けさせた事件付き)、という始末。加えて、セックスレス。もうとっくのとうに別れたほうがよかったかもしれない、そんな2人が洞窟に足を踏み入れた後から“くっつきはじめる”なんて、観ているこっちが頭を抱えたくなってしまう。この映画の強みは、そうやってすでにポスターや前振りで散々「カップルが文字通りくっついてしまう」といったホラー部分の種明かしをしている“からこそ”、こちらに最悪なシチュエーションを想像させるのが上手いことにある。そして、そこにボディホラーというジャンルの真価が発揮されているのだ。

ボディホラーの系譜の中で観る『トゥギャザー』

 ボディホラーと聞けば、やはり思い浮かぶ名前はデヴィッド・クローネンバーグだろう。彼が1980年代に確立したともいえるこのジャンルは、肉体の変容を通じて内面的な不安や社会的な病理を描いてきた。この系譜の中で、近年はジュリア・デュクルノーの作品(『RAW 少女のめざめ』『TITANE/チタン』)や、クローネンバーグの息子であるブランドン・クローネンバーグの作品(『ポゼッサー』や『インフィニティ・プール』)などが輝いている。特にクローネンバーグ親子の作品は、すべてというわけではないがテクノロジーや科学を通して「自己の喪失」や「倫理の崩壊、破滅」を描くことが多いのに対し、デュクルノーの作品は性の目覚めや愛と孤独、父との関係性などを通して「抑圧からの解放」や「変容による自己の獲得」をむしろ描いてきたように感じる。

 コラリー・ファルジャ監督の『サブスタンス』は、どちらかといえば“あの”ぐちゃぐちゃでドロドロした質感も含め、クローネンバーグのアイデンティをしっかり継承した作品のように感じる。

 一方、“肉体的融合”を“恋愛の共依存”の直接的なメタファーとして描く『トゥギャザー』もまた自己や自律性の喪失の物語だが、シャンクス監督は本作で80年代的なキッチュなスタイルを意図的に避け、より「現代的で乾いた、痛々しい質感」を追求したとインタビューで語っている(※1)。だからこそ本作は肉体破壊描写以上により明確化されるサブテキストに注目される作品が増えた近年のボディホラーの潮流の中で、ジャンルの持つ独自的な魅力を継承しながらも新鮮味のある映画なのだ。

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