『トゥギャザー』は“ボディホラー”の新たな地平 恋愛映画としての完成度の高さに慄く

『トゥギャザー』はボディホラーの新たな地平

劇中に登場する“都市伝説”が意味するもの

 さて、そんな本作には面白い仕掛けがいくつもある。特に印象的なのは、ミリーとティムが引っ越してきた家の天井から出てきた“ラットキング”だ。一種の伝承や都市伝説として知られるラットキングは、複数のネズミが狭い場所で生活するうちに、尻尾に糞尿や泥、あるいは血液が絡まり合い、物理的に解けない一つの巨大な集合体となってしまう現象を指していて、1500年頃の中世ヨーロッパではこの異形が“不吉な前兆”として恐れられてきた。

 そんな“ラットキング”が、本作においては平穏な日常に亀裂を入れる象徴として登場する。単なるホラーの小道具ではなく物語の根幹となる“くっついてしまう”運命のメタファーであり、観客目線だと不穏すぎて再び頭を抱えてしまう。それだけでなく、社会的なスペック差がありながらもダラダラと続いてしまった関係性の隠喩でもある。個としての自律を失い、腐敗しながらも他者に依存して生きるしかない姿は、ティムとミリーが陥りつつある状況そのものでもあるのだ。

 本来、自律した個体であるはずの人間が、愛という名のもとに境界線を失い、一つの“醜悪な塊”へと成り果てていく。そんな“ラットキング”が示す本作のテーマ「個の喪失」という恐怖は、現代社会における過剰な共依存や、アイデンティティの同質化に対する強烈な風刺としても機能している。それに、ティムが“死臭”に気づくところも物語やキャラクター背景において大きなポイントとなっていて、本当に無駄のない脚本だなと惚れ惚れしてしまうのだ。

“リアル”に基づくからこその、パーソナルな物語としての説得力

 そしてなんといったって、この救いようのない設定の中カップルを演じる主演のデイヴ・フランコとアリソン・ブリーは、実生活で夫婦なのだから凄い。ジェームズ・フランコの弟でもあるデイヴは、『マッドメン』シリーズでブレイクしたブリーと2017年に結婚。約10年の夫婦生活があるからこそ、カップルとしての絶妙な会話や空気を自然と生み出せる。それはまさに、 “作ろう”と思って作れない本物感であり、ボディホラーという非現実的なビジュアルを伴う本作の足が地につく手助けになっている。

 リアルなのは、役者だけではない。本作の題材そのものにシャンクス監督自身の恋愛経験が投影されているのだ。

「この映画は、誰かに完全にコミットすることに対する私の恐怖と不安を祝福し、考査したものです」

 「FILM MAKER MAGAZINE」でのインタビュー(※2)で、自身とパートナーの恋愛が本作の核にあることを明かしている監督。Variety誌では「パートナーと長年一緒に過ごしたことが、間違いなくインスピレーションの源となりました。映画の脚本を書いている頃、僕たちは交際10年目に突入し、同棲も始めました。その時、僕とパートナーは全く同じ人生を送っているという事実に、真正面から向き合ったのです。全く同じ友達と知り合い、同じ音楽を聴き、同じ食べ物を食べ、同じ空気を吸っていました」と語っている。(※3)

 本作がボディホラーというジャンルを通して描くのは、文明への警鐘でもなければ、高尚な自己解放でもない。ただ「他者との境界線が維持できない」という、極めて現代的で、情けないほど人間臭い悩みなのだ。長年パートナーと過ごすうちに、相手と出会う前の自分がわからなくなった、そんな監督の感情から生まれた作品だからこそ、妙に共感できたり自分ごとに考えたりすることができる。

 コンパクトでパーソナルなストーリーテリングを行うからこそ、“リレーションシップ”という人類が永遠に頭を抱えてしまう深い題材に目を向けることができる本作。ホラーなのに鑑賞後感が「気持ち悪かった」とか「怖かった」以上に、何かもっと本質的なことを考えて、誰かと話したくなる。そんな魅力がある。

 愛することは、相手を自分の一部にすることなのか。それとも、個としての境界線を守り抜くことなのか。衝撃のラストをあなたはハッピーエンドと感じるか、それとも……。

参照
※1. https://www.rogerebert.com/interviews/two-become-one-dave-franco-alison-brie-and-michael-shanks-on-together
※2. https://filmmakermagazine.com/131439-michael-shanks-together/
※3. https://variety.com/2025/film/news/together-dave-franco-alison-brie-horror-romcom-1236474899/

■公開情報
『トゥギャザー』
全国公開中
出演:アリソン・ブリー、デイヴ・フランコ
監督・脚本:マイケル・シャンクス
提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ
2025年/豪・米/英語/101分/カラー/5.1ch/ビスタ/原題:Together/PG12/字幕翻訳:小寺陽子
©2025 Project Foxtrot, LLC
公式サイト:together-movie.jp
公式X(旧Twitter):@together0206

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