『良いこと悪いこと』になぜ誰もが夢中になったのか 考察ブームを加速させた大胆な仕掛け

また、本作を語る上で欠かせないのが、ミステリー作品としての魅力だろう。TVerの累計再生数は4600万回を突破し、再生回数で日本テレビのレギュラードラマ歴代1位を4度も更新(※)。放送が終わると同時に真犯人へとつながる手がかりを見つけ出そうとする人々が続出し、オープニングのワンカットからセットの片隅にある小道具の特徴まで、映像を隈なく見渡して手に入れた情報をもとに、さまざまなパターンの考察がSNSを中心に展開された。

熱狂的なファンを生み出した本作のミステリーとしての魅力を挙げるならば、いわゆる“伏線回収”を段階的にしてストーリーに起伏をつけながら、映像作品ならではの“先入観”を利用したトリックを、登場人物たちすらも巻き込んで取り入れたことだろう。
そもそもドラマの放送前から考察ミステリーであることは周知されていたが、どちらかと言えば、一斉に解禁された13人の主要キャストの豪華な顔ぶれや、主題歌に選ばれたポルノグラフィティの名曲「アゲハ蝶」からも想起される平成カルチャーに注目が集まっていたように思う。
ところが、初回放送が始まってすぐに、水川かたまり演じる武田がマンションから突き落とされて命を奪われてしまう。平成のノスタルジーをストーリーの至るところにちりばめて視聴者を立ち止まらせながら、スピーディーな展開を持ってして、規則性のある連続殺人事件の謎に興味を惹きつけていく。平成カルチャーで物語のテーマをカモフラージュしたことで、懐かしい思い出に浸る人々をそのまま考察ミステリーの沼に引きずり込んでいた。
さらに、物語の本筋に目を向けると、毎話のように大きな山場を作っていたのも印象的だ。「森のくまさん」の替え歌通りに命を狙われる“見立て殺人”かと思わせておいて、幻の7人目で“博士”と呼ばれる森(古舘祐太郎)が身近な場所に潜んでいたり、警察側だと安心しきっていた宇都見(木村昴)が会議室にいた小山(森本慎太郎)に襲いかかったりと、クリフハンガー以外でも驚きをもたらすシーンが多かった。

そして、もっとも視聴者に大きな衝撃を与えたのが、森から手渡されたビデオ映像の最後に、もう1人の「ドの子」である瀬戸紫苑(吉田帆乃華/大後寿々花)が登場した第8話のラストシーン。実際に、これまでのエピソードを見返すと、小学生時代に羽立(森優作)が仲間に加わってピアノの模型を壊すシーンの字幕や、森が作ったインターネット掲示板の書き込みなどで、意図的に「どの子(園子)」と「ドの子(紫苑)」が区別されていた。
シンプルかつ大胆な仕掛けと言えるが、発音が同じだからこそ、視聴者はもちろんのこと、登場人物たちでさえも言葉を交わしているだけでは気づけない。小説でいう“叙述トリック”のような効果を発揮した一連のタネ明かしは、その場でビデオ映像を観ていた高木や小山にも大きな衝撃を与えるほどだった。
“平成カルチャー”が押し出された考察ドラマ。小学生時代に仲が良かった“6人組”。「どのこ」と呼ばれる少女は“1人”だけしかいない。さまざまな先入観がトリックとして有効に機能した『良いこと悪いこと』は、真実を知ることで見えていた世界が変わる、ミステリーの醍醐味を思い出させてくれる作品だった。
参照
※ https://www.ntv.co.jp/iiwaru/articles/4949f50ficcbvxsdle8u.html
ガクカワサキが脚本を手がけるノンストップ考察ミステリー。小学校の同窓会で、連続不審死が発生。同級生全員が容疑者となる中、犯人を巡る探り合いが始まる。
■配信情報
『良いこと悪いこと』
TVer、Huluにて配信中
出演:間宮祥太朗、新木優子、森本慎太郎(SixTONES)、深川麻衣、戸塚純貴、剛力彩芽、木村昴、藤間爽子、工藤阿須加、松井玲奈、稲葉友、森優作、水川かたまり(空気階段)ほか
脚本:ガクカワサキ
演出:狩山俊輔、滝本憲吾、長野晋也
プロデューサー:鈴木将大、妙円園洋輝
チーフプロデューサー:道坂忠久
音楽:Jun Futamata
制作協力:ダブ
©日本テレビ
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