『あんたが』拡大SPで新たな壁に直面? 勝男たちが乗り越えた“過去の自分”を総括

『あんたが』勝男が乗り越えた“過去の自分”

 また、このように家族の変化という大きな課題にも焦点が当たった第7話を踏まえて、第8話ではついにラスボスである父(菅原大吉)と向き合うことになる。かと思いきや、ここでまず「過去の自分」として立ちはだかったのは母(池津祥子)であった。

 「自分で無理して家事しようとしたりなんかして」という圧巻の“逆勝男”にはじまり、こういうのは女の子のほうがセンスがあると料理を椿に手伝わせつつ、早く結婚したほうがいいと迫る化石母。その結婚に対する考え方や、女性の生き方に対する価値観は、第1話までの勝男の「完璧だったはずの俺の人生」と同様であり、「家で料理を作って愛する人の帰りを待つっていうのがさあ女の幸せだと思うけどな」などの発言とも鏡合わせになっている。そして、勝男はまたそんな「過去の自分」と器用じゃなくても全力でひたむきに向き合っていくのだ。

 このようなストーリーラインの巧妙さこそが『じゃあ、あんたが作ってみろよ』というドラマの1つのストロングポイントであり、さらにそれは今作に一貫して流れる「優しさとは相手の立場から物事を見つめられる想像力である」という大切なメッセージの根幹をなす部分でもあるのだ。

 第3話では「自分は型にはめられたくないのに相手のことを型にはめてしまってた」「相手のことももっと知って自分のことも知ってもらえたら自然と型って無くなるのかな」といったセリフがあり、第5話でも「いろんな立場を知る努力をしたり想像したりしたい」といったセリフがあるように、相手のことをよく知らずに不安だからという理由でカテゴライズしてしまう危険性や作った人の気持ちを想像しない浅はかさなどが、主に化石男であった勝男の変化を通して見事に可視化されている。

 そして、その立場を見せる表現は単に抽象的な人の立場やスタンスにとどまらず、具体的な立ち位置としての「キッチン」という場所が肝となって機能している。これも今作の親しみやすさ、見やすさの大きなポイントとなっているといえるだろう。

 勝男がキッチンに立ったからこそ気づけたこと、もしくは横並びになり同じ立場から同じ方向から同じものを見るという変化が今作の幹となり葉となっているのだ。

 例えば、それはおでんは「俺の心」であるということであり、いつも前を歩いていた勝男が鶏天の揚げ方を学ぶことで知った鮎美の手間暇と技術力であり、料理を始めたことによって、実家で洗い物を手伝う勝男だけが真っ先に気づけた母のインスタント味噌汁なのである。

 さらに、このインスタント味噌汁は男4人に囲まれた家庭の中で誰にもバレていない母の秘密であり、その初めての共有があったから母は勝男の元を訪れ、それがまた母なりの今後の人生への違和感のきっかけであり、初めてのSOSに近いものでもあったといえるだろう。(勝男が鮎美と別れて1人という心配は、固定電話の子機の充電切れに近い建前である。)
こうして勝男の優しさや変化はまた新たな変化を生み、実家で1人になることでまた初めて父が気づけたことにも繋がっていく。その点、第8話はまさに母から父への『じゃあ、あんたが作ってみろよ』でもあったのだ。

 そして、勝男はそんな母に「自分は1人で大丈夫になりたい」と伝え、父には朝食を振る舞うことで「男はドッシリ座ったとけ」という価値観に変化が生まれる。さらに、インスタント味噌汁を通して不器用ながらも父と母の2人の関係も変化していくのだ。また、父と横並びで眠ることで勝男は父の家族に対する思いに初めて触れることにもなっている。

 もちろん、こうした変化は鮎美にも訪れている。第1話では頭ごなしに「勝男さんにはわからない」と決めつけていた彼女は、それからここまでたくさんの勝男の変化を目にしている。そんな鮎美と勝男はついに一周回ってスタートラインに横並びで立った2人である。もちろん結婚だけがゴールではないことも含めて、2人の行く末からはますます目が離せないものとなっている。

 このように、あの第1話があるからこそ成長していく勝男をさまざまな形で見せ、その変化を補強していくという見事な構造を持つ今作。第9話はなんと拡大スペシャルとなることが発表されており、さらにここにきて「クセ強なおともだち」という新キャラの投入も予告されている。これまで「過去の自分」に何度も向き合い、幾度もの変化により立派に成長してきた勝男にとって、新たな壁が立ちはだかるのだろうか。

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の画像

火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』

谷口菜津子による同名漫画を原作としたロマンスコメディ。「料理を作る」というきっかけを通じて、“当たり前”と思っていたものを見つめ直していく男女を描く。

■放送情報
火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:夏帆、竹内涼真、中条あやみ、前原瑞樹、サーヤ(ラランド)、楽駆、杏花
原作:谷口菜津子『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(ぶんか社『comicタント』連載)
脚本:安藤奎
演出:伊東祥宏、福田亮介、尾本克宏
プロデューサー:杉田彩佳、丸山いづみ
編成:関川友理
音楽:金子隆博
主題歌:This is LAST「シェイプシフター」(SDR)
制作:TBSスパークル、TBS
©TBSスパークル/TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/antaga_tbs/
公式X(旧Twitter):@antaga_tbs
公式 Instagram:antaga_tbs
公式TikTok:@antaga_tbs

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