『べらぼう』生田斗真があまりにラスボス過ぎる “血と志”を描く大河ドラマ異例の最終幕へ

そうして売り出された写楽の浮世絵に江戸中が騙される。謎の絵師・写楽とは何者だ!? 無名の大物新人か、あるいは歌麿か。はたまた平賀源内か。源内生存説を広めることで「死を呼ぶ手袋」の真相を掘り起こされたくない治済を追い詰める――それが仇討ちだと思っていた蔦重だが、そんな彼もまた定信に騙される。その騒ぎの裏で、定信は治済を芝居小屋におびき寄せようとしていたのだ。

定信の間者として治済に近づいたのは、「死を呼ぶ手袋」の中心にいた大崎(映美くらら)。だが、治済も大崎に手玉に取られるような人物ではない。大崎の案内する芝居小屋にはなかなか向かわず、まず足を運んだのは蔦重のいる耕書堂。ついにラスボスとの対面となるが、蔦重はその正体を知らない。
「主、写楽というのは、まこと源内なのか?」
「さあ、どうでしょう?」
それは店先で交わされる想定内の質問だったのだろう。だが、その相手が想定外の人物であるというチグハグな状況に緊張感が走る。「あの戯作も面白かったぞ」と囁く治済に、まだピンと来ない蔦重。それは治済からの「気づいているぞ」という釘打ちだった。

あの戯作とはもちろん、定信が源内として書いた『一人遣傀儡石橋』。だが治済はその筆跡を定信のものだと見抜いていた。そして曽我祭りで配られるお祝いの饅頭配りのなかに、毒入りの饅頭を手渡す男を忍ばせる。その男は定信の家臣たちにも手渡し、さらに耕書堂の前に立つ蔦重の手代にも。「おめでとうございます」という真逆の言葉が添えられているのが、また不気味だ。
失意に沈むていに、蔦重の義理母・ふじ(飯島直子)が差し入れた甘味が生きる力を与えてくれた。そんな話の直後に死を呼ぶ饅頭を入れてくるところが、森下佳子脚本の優しさと厳しさが鮮やかに際立つ。そして「これを食してから行くとするかの。そ〜な〜た〜が〜な」と、毒入りの饅頭を食べるように大崎に迫る治済。その姿に、同じ森下脚本で男女逆転が描かれた『大奥』の治済(仲間由紀恵)を彷彿とさせるところも、ファンへの目くばせのように感じられて心にくい。

騙したと思えば騙され、騙されたふりをしてさらに騙す。まるで昔話のキツネやタヌキのばかし合いのような展開に、止めを刺すかのように登場したのが治済そっくりな男だった。特大の「そう来たか!」がここで投じられるとは。

これまでなんの躊躇もなく人の血を流してきた治済が、なんの血も繋がらない他人に“一橋治済”を乗っ取られる――そんな作戦なのだろうか。実に黄表紙らしい仇討ちだが、大河ドラマという枠では異例な展開となりそうだ。しかし、そんな“べらぼう”なことをしてこそ、私たちが愛した『べらぼう』だとも思うのだ。
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK






















