吉沢亮は2025年最も“振り幅”を見せた俳優だ 『ばけばけ』とセットで観たい必見作5選

『ばけばけ』とセットで観たい吉沢亮の出演作

『銀魂』

『銀魂』©空知英秋/集英社 ©2017映画「銀魂」製作委員会

 実写映画『銀魂』で演じた沖田総悟は、吉沢の振り幅を語るうえで、まず思い出したい役だ。いつも飄々としていて、どこか掴みどころがないけれど、その奥にはちゃんと冷静な強さを秘めている。そんな人気キャラクターを、吉沢は肩の力の抜けた自然さで引き受けている。ギャグシーンでは全力でふざけながら、ここぞという場面では、目線ひとつで場の空気をキュッと締める。その切り替えが、とても滑らかだ。

 沖田は、「ボケにも回るし、ツッコミにも見える」という、バランスを崩すと一気に浮いてしまうポジションでもある。吉沢はその難しさを感じさせることなく、コメディの自由さとキャラクター本来のクールさを同時に成立させている。だからこそ、ちょっと意地悪で、でもどこか軽やかな毒っ気が心地よく残る。原作ファンから「温度がそのまま」と言われたのも納得で、この作品での沖田は、のちの実写化作品において「吉沢亮なら任せられる」という信頼の土台になっているのだろう。

『キングダム』

『キングダム 大将軍の帰還』©︎原泰久/集英社 ©︎2024映画「キングダム」製作委員会

 『キングダム』では、若き王・嬴政と、その影武者だった漂の二役を吉沢が演じている。このキャスティング自体が印象的だが、実際に作品を観ると、そこにはのちの『国宝』にもつながっていくような「静かな強さ」の始まりが見えてくる。嬴政として画面に立つとき、吉沢は多くを語らなくても、その場の空気をスッと変えてしまう。深くゆっくりとした呼吸や、わずかに揺れる視線だけで、政治の渦中に立たされる王の重さや覚悟が伝わってくる。

 一方で、漂として見せる柔らかい笑顔や、少し軽やかな身のこなしは、嬴政とはまったく違う印象を与える。同じ顔をしているはずなのに、まとう空気がはっきりと違うのだ。その差を生んでいるのは、肩の位置のわずかな違いや、歩き方、台詞を発するときの重心の置き方といった、本当に細かな身体の使い方にある。大きな戦いの物語の中で、吉沢は静の側を受け持ちながら、物語の軸をしっかり支えていた。漂の死が嬴政の覚悟につながっていく流れも、二役それぞれの温度がきちんと描き分けられているからこそ、より立体的に響いてくる。この作品で、吉沢がまったく違う二人を自然に同居させられる俳優であることが、はっきり示されたと言っていい。

『PICU 小児集中治療室』

PICU 【Fuji TV Official】

 ドラマ『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系)で吉沢が演じたのは、北海道の病院で働く若い小児科医・志子田武四郎だ。大作映画のようなスケール感や派手なビジュアルからは少し距離を置き、日常の延長線上にある命と向き合う現場に身を置くことで、吉沢の素の温度に近い魅力がにじみ出ていた作品でもある。

 武四郎は、決して最初から完璧なヒーローではない。戸惑ったり、うまくいかない現実に打ちのめされたりしながら、それでも目の前の子どもと家族のために踏みとどまろうとする。吉沢は、その不器用さや迷いを隠さずに見せることで、医師というよりも一人の若者としての等身大の成長を描いていった。感情を爆発させる場面よりも、言葉に詰まりながら何とか思いを伝えようとする瞬間や、患者のそばに静かに座り込む背中に、武四郎という人物の優しさが宿る。

 『国宝』のような重厚な芸道ものや、『ババンババンバンバンパイア』のようなポップなコメディとはまた違うかたちで、誰かのために懸命に踏ん張る人を描いたのが『PICU 小児集中治療室』だと言える。大きな見せ場だけでなく、日常の細かなやりとりの中に感情の揺れを織り込んでいくこの作品は、吉沢のふつうの青年としての魅力と誠実さを確認できる一本になっている。

 重たいドラマでも、ポップなコメディでも、どんな現場に立っていても、吉沢亮はいつもその作品にとってちょうどいい温度でそこにいてくれる。前に出てぐいぐい引っ張るというより、物語の真ん中にすっと立ち、周りの役や世界観をきちんと生かしながら、自分の存在も確かに刻んでいく。そのバランス感覚が、とても心地いい。

 これから先のキャリアを考えるとき、楽しみなのは「どんな大役をつかむか」だけではない気がする。大河や朝ドラのような大きな舞台はもちろん、その合間にふと飛び込んでくる小さな企画や、ジャンルの枠をはみ出した作品の中で、また新しい一面が顔を出すかもしれない。きちんと地に足のついた佇まいを保ったまま、作品ごとに少しずつ色合いを変えていく。その変化の積み重ねを長いスパンで見守っていけること自体が、俳優・吉沢亮を追いかける醍醐味になっていくはずだ。

参照
https://realsound.jp/movie/2025/11/post-2229758.html

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる