吉沢亮は2025年最も“振り幅”を見せた俳優だ 『ばけばけ』とセットで観たい必見作5選

2025年、映像作品で最も振り幅を見せた俳優の一人が吉沢亮である。現在放送中のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』では、松江中学で英語教師として勤務する傍らで、ヘブンをサポートする錦織を演じている吉沢。どこか抜け感のあるユーモアと繊細な感情の揺れを同時にまといながら、物語の空気をさりげなく変えていくような佇まいが印象的だ。ナチュラルな芝居で日常の中にいる人物として視聴者のそばに立ちつつ、その一方でスクリーンの上では、まったく違う顔を次々と更新している。
映画『国宝』では、歌舞伎の芸道を50年にわたり生き抜く男・立花喜久雄の人生を演じている。抑えた感情の奥に静かな熱を宿した芝居は、興行収入がすでに173億円を超える大ヒットとなった作品を(※)、確かな存在感で支えている。同じく今年公開されたコメディ映画『ババンババンバンバンパイア』(以下、『ババンバ』)では、美しく奔放なバンパイア・森蘭丸として、振り切ったテンションでスクリーンいっぱいに解放感を広げてみせた。重厚なドラマとポップなコメディという、まったく色の違うジャンルを自然に行き来できる振り幅は、今年の活躍ぶりを象徴していると言っていいだろう。ここでは『国宝』『ババンバ』を入り口に、彼が歩いてきた多彩な役どころをたどりながら、その奥行きの大きさをあらためて確かめてみたい。
『国宝』
『国宝』での吉沢は、俳優としての静かな底力をいちばんはっきり感じさせてくれている。歌舞伎の芸に人生を捧げた立花喜久雄の50年を、年齢ごとに演じ分けているというよりも、長い時間をかけて同じ人物の中身が熟していくように見せているのが印象的だ。その変化を大げさに強調することなく、気づけば「同じ人間の50年をずっと見てきた」と思わせてしまうところに、この作品での吉沢のすごさがある。
喜久雄が抱える孤独は、大きな泣き叫びやわかりやすい怒りでは描かれない。むしろ、その多くは沈黙の中に滲んでいる。台詞と台詞のあいだの呼吸、舞台へ向かう前にふと立ち止まる一瞬、遠くを見つめる視線の揺れ。そうした細かな瞬間が積み重なっていくことで、気づけば観客の胸の奥にじんわり迫ってくる。3時間近い物語がそれほど長く感じられないのは、感情の振れ幅が大きくなくても、彼の芝居がずっと動き続けているからだろう。

173億円超えという歴史的なヒット作でありながら、この映画の中心にあるのは派手さではなく、静かな覚悟とコツコツ積み上げられた献身だ。吉沢がこの役と向き合ってきた時間そのものが、作品の重みを支えている。俳優として積み重ねてきたものが、ひとつの形になってあらわれた作品だと感じる。
『ババンババンバンバンパイア』
『ババンババンバンバンパイア』で吉沢が演じる森蘭丸は、彼のコメディセンスが一番のびのびと出ている役と言っていい。テンション高めの世界観の中で、「こんなにきれいなのに、やっていることはちょっとバカっぽい」というギャップがずっと続いていく。そのアンバランスさが、そのまま蘭丸の魅力になっている。表情はころころ変わり、声のトーンもくるくると変化するけれど、ただ大げさに騒いでいるようには見えない。きちんとキャラクターの輪郭を保ったまま振り切れているところに、吉沢の上手さがある。
蘭丸という人物の根っこには不思議な優雅さがある。吉沢はその感じを丁寧につかみ取りながら、作品全体の空気をふわっと持ち上げていく。ドタバタしたシーンが続く中でも、ふと立ち止まったときの視線や、さりげない仕草に品の良さがにじむので、ただのドタバタコメディでは終わらない厚みが出てくる。

『国宝』を観たあとに本作を観て、そのギャップにやられてしまった人も多かったはずだ。さっきまで50年の人生と芸の重さを背負っていた俳優が、今度は同じ顔で、全力でバカバカしくて愛らしいバンパイアを演じている。その落差に思わず笑ってしまう一方で、「どちらもちゃんと似合ってしまう」のが、吉沢亮という存在のおもしろさだ。重厚なドラマとポップなコメディという両極を同じ年に経験したからこそ、彼の“振り幅”の大きさが、よりくっきりと浮かび上がってくる。




















