『ばけばけ』八重垣神社も“聖地”になるか? 『虎に翼』など朝ドラが産んだ象徴スポット

『ばけばけ』八重垣神社も“聖地”になるか?

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』では、物語の舞台である明治時代の松江の街並みが再現されている。ドラマで登場する大橋川にかかる松江大橋はセットで再現されており、いつかのアルバムをめくるように、トキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)の幸せな夫婦の日常が映し出されるオープニングの写真は、川島小鳥の手によって実際に松江大橋で撮影されたものだ。

 川向こうに見える松江城も含めて、当時の松江の風景がVFXを駆使した映像で映し出されるなか、小泉八雲ゆかりの地が実際のロケ地となっていることも多い。

 特に視聴者にとって印象深いのは、トキが運命の結婚相手を占うために、織物工場の女工たちと訪れた八重垣神社ではないだろうか。第5話で、硬貨を乗せた紙を水面に浮かべるものの、一向に沈む気配のない紙を一点に見つめる、切なくもおかしみのあるトキの姿が映し出された。

 トキのモデルとなった小泉セツも実際に八重垣神社で恋占いをしており、ドラマで描かれたのと同様に、遠くのほうで沈んだと伝えられている。出演者も八重垣神社には撮影外で訪れていたようで、鏡の池に硬貨を乗せた紙を浮かべている写真はたしかに風情がある。トキたちのように切実な心持ちで縁結びを楽しむ人がいっそう増えれば、この場所が「聖地」として視聴者から親しまれることになるかもしれない。

 ただ、実際に「聖地」と呼ばれるに至るには、どのような要素が必要になるのだろうか。近年放送された朝ドラで印象的な「聖地」として名前を挙げたいのが、NHK連続テレビ小説『虎に翼』(2024年度前期)のロケ地となった「名古屋市市政資料館」だ。レトロな赤レンガの外観や、主人公の寅子(伊藤沙莉)が傍聴する裁判シーンの一部が撮影された法廷が残されるなど、ドラマを観ていた人ならば一瞬で当時の記憶が蘇る象徴的な場所だ。

 特に訪れた人の目を引くのが、建物に入ってすぐに目の前に飛び込んでくる大階段。明律大学女子部の涼子(桜井ユキ)や梅子(平岩紙)らと志をともにして歩き、たびたび寅子の転機となった桂場(松山ケンイチ)と相対するなど、中央に飾られたステンドグラスの意匠を背景に多くの名シーンが生まれた。

 さらに、同じ年に放送された第75回NHK紅白歌合戦では、名古屋市市政資料館の大階段をバックに本作の主題歌「さよーならまたいつか!」が披露されたのも記憶に新しい。スピンオフドラマの流れを汲んで登場した米津玄師の歌唱だけでなく、主演の伊藤沙莉を筆頭に女子部の面々も交えたダンスは視聴者に大きな衝撃を与え、ドラマを観ていた人々の思い出を想起させるようなパフォーマンスを届けてくれた。

 また、東北地方に目を映すと、一大ブームを巻き起こした『あまちゃん』(2013年度前期)故郷編のロケ地となった岩手県久慈市や、『おかえりモネ』(2021年度前期)のロケ地となった宮城県気仙沼市など、街や都市そのものが聖地巡礼スポットになっている。

 特に大きな経済効果を生んだと言われているのが『あまちゃん』だ。脚本家・宮藤官九郎節が光るコメディタッチなストーリーと個性豊かなキャラクターが織りなす青春ドラマの舞台となったのが、架空の町である北三陸市。そのメインロケ地である岩手県久慈市では、主人公の天野アキ(能年玲奈)が初めて海女の潜水に挑戦した「袖が浜海岸」のモデルとなった「小袖海岸」や、劇中でたびたび登場する三陸鉄道の久慈駅など、登場人物たちの過ごした時間を追体験することができる。ドラマの放送開始時から多くの観光客が「海女センター」に足を運んだことからも、その影響力の高さは相当なもので、朝ドラの聖地巡礼ブームの先駆けとも言える作品だ。

 さらに、2021年に『おかえりモネ』が放送開始した直後には、朝ドラの舞台となった東北の4市が連携したプロジェクト「気仙沼・登米・久慈・福島おかえりプロジェクト」が始動して大きな反響を呼んだ。

 そんな東北への聖地巡礼を促すきっかけとなった『おかえりモネ』のロケ地も、いまだに根強い人気を誇っている観光スポットだ。ドラマの前半、宮城県気仙沼市の離島・亀島で生まれ育った主人公の永浦百音(清原果耶)が、森に囲まれた登米市で気象予報士を目指して奮闘する姿が描かれる。彼女が高校卒業後に勤めた米麻町森林組合の事務所として使用された「長沼フートピア公園」は冒頭から登場するため、ファンにとっても馴染み深い場所。さらに、百音が気象予報士として働くことになる「海のまち市民プラザ」としても知られる「気仙沼市まち・ひと・しごと交流プラザ」や、菅波先生(坂口健太郎)と再会を果たした田中浜など、数多くの名シーンに思いを馳せることができるスポットが盛りだくさんとなっている。

 実際、これまでの朝ドラを振り返ると、作品の象徴となる建造物や主人公が人生の転機となる出会いが生まれる場所が、聖地巡礼スポットとして親しまれることが多い。

 『ばけばけ』の第9週「スキップ、ト、ウグイス。」では、ヘブンへの好意を隠そうともしない江藤知事(佐野史郎)の娘・リヨ(北香那)が登場。ヘブンとの距離が縮まり、スキップの練習に勤しんでいたトキは、彼女に恋を成就させるための協力を要請される。

 すると、再びトキがリヨに連れられて、縁結びのために八重垣神社を訪れる可能性もある。トキにとってはもはや因縁とも呼べる場所なので、ここでさらなる印象的な名場面が生まれるならば、八重垣神社に愛着を持つ人もさらに増えるのではないだろうか。ある意味、ヘブンをめぐる恋模様の行方がカギを握っているのかもしれない。 

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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