『KILL 超覚醒』のガチンコアクションに興奮 タイトルにふさわしい情け無用の残虐ファイト

タイトルが潔い。『KILL 超覚醒』(2023年)は、インドからやって来たノンストップバイオレンス映画である。名は体を表すと言うが、こんなにもタイトル通りの映画も久しぶりだ(原題も『Kill』)。
とある列車が武装強盗団に襲撃される。ナイフで武装した強盗たちは列車をあっという間に占拠するが、たまたま列車にはワケありの最強軍人アムリト(ラクシャ)が乗っていた。たちまち激突する両者であったが、アムリトは圧倒的な強さで強盗団をなぎ倒していく。しかし、強盗団幹部であり冷酷非道なファニ(ラガヴ・ジュヤル)は、アムリトの恋人トゥリカ(ターニャ・マニクタラ)が列車内にいることに目を付けた。最強vs最凶、ふたりの男の死闘が始まる!
まず、この映画の偉いポイントは、話がしっかりしていることだ。基本的にずっと戦っているのだが、起承転結があり、ドラマでも魅せてくれる。味方サイドの“超覚醒”に至るまでと、そこからの怒涛のギアの上がり具合もいいが、悪役サイドの微妙にビビっている感じと、人は殺すけれど仲間が殺されたらピュアに怒る自分勝手さが変にリアルでいい。こういう戦い続ける系の映画は、失敗するとスタントのテスト映像めいてしまうことが多々あるが、本作はその罠に陥らず、王道のアクション映画として成立している。
そんなわけでドラマはきちんとしているが、やはり白眉はアクションだ。インド映画はアクションがたくさんあるが、スローモーションを多用したダイナミックなアクションのイメージが強い。ハッタリ重視であり、それはそれで楽しいが、いわゆる本物っぽさには欠けるのも事実。しかし、本作のアクションは完全なガチンコスタイルである。主人公が使うのは軍隊格闘術「クラヴマガ」と、超実戦派の棒術「カリ」。強盗団の息の根を確実に止めていく戦い方は、非常に生々しい。もちろん殴る、蹴る、投げる、折る、燃やすと、狭い列車の中でよくぞここまでと思うほど、バラエティー豊かなアクションで楽しませてくれる。人体破壊も凄まじく、情け無用の残虐ファイトは、まさに『KILL』のタイトルにふさわしい。本作がインド版『ザ・レイド』(2011年)と言われたのも頷ける。
もう一点、本作で注目したいのは、主人公がけっこう負けることだ。殴られ、切られ、絞められる。メチャクチャ強いが、決して無敵ではない。このサジ加減も絶妙であるし、ここで最初に挙げたドラマが活きてくる。冷静になると人間の限界的に頑張れないレベルでボロボロになるのだが、ドラマ部分でこっちのテンションを上げてくれるので、「人体の常識なんか関係ねぇ! 頑張れ!」と応援できるし、人間の限界を超えて戦いまくってくれると爽快感がある。優れたアクション映画では、登場人物の感情と人体が絶妙にシンクロするものだ。現実の世界では、どれだけ怒ってもパンチ力が上がらないし、立てない時は立てない。けれどアクション映画の中でだけは、その壁を取っ払うことが可能なのである。
スクリーンの中の自分、つまり感情移入した先の主人公は、どれだけボロボロだろうと立ち上がる。そこにはカタルシスが発生するし、観終わったあとには不思議な達成感が発生する。『KILL』はこの点も上手い。最強軍人という、ほとんどの観客とは無縁の屈強な人物でありながら、ちょいちょい負けることで、こちらの気持ちを上手く乗せてくれる。そのうえで大暴走してくれるのだから、爽快感もひとしおだ。とんでもない数の人死にが出るし、人体各種が大変なことになり、後半になるにつれて凄い死がバンバン出てくる。非常にエクストリームな映画であるが、一方でアクション映画の基本的な魅力をしっかり押さえてくれていると言えるだろう。「とにかく何か凄いアクション映画が観たい!」という方、オススメである。
■公開情報
『KILL 超覚醒』
全国公開中
出演:ラクシャ、ターニャ・マニクタラ、ラガヴ・ジュヤル
監督・脚本:ニキル・ナゲシュ・バート
プロデューサー:グニート・モーンガー
アクション監督:オ・セヨン
配給:松竹
インド/2024年/105分/ヒンディー語/カラー/5.1ch/原題:Kill/日本語字幕:福永詩
©2024 BY DHARMA PRODUCTIONS PVT. LTD. & SIKHYA ENTERTAINMENT PVT. LTD.



























