野木亜紀子の脚本は線香花火のよう 『MIU404』に通じる『ちょっとだけエスパー』の連鎖

題材的にはひとつ、バタフライエフェクトがポイントではあるだろう。野木亜紀子の代表作『MIU404』(TBS系)のルーブ・ゴールドバーグ・マシン(ピタゴラ装置)との親和性も感じ、ファンにはたまらないのではないだろうか。『MIU404』で伊吹(綾野剛)が言っていた「玉突きされて入った俺が、404で志摩(星野源)と組むことになって、ふたりで犯人追っかけて、その一個、一個、一個が全部スイッチで! なんだか人生じゃん! 一個一個、大事にしてえの。諦めたくねえの」みたいなことが、文太たちのささやかな行為で成立していくのだと思う。
兆が見ている無数の枝分かれ図(ゼーレの生命の樹みたい)が正常だときっと人間はいい方向に進み、異常が起こると人間世界に災いが起こる? つまり、ともすれば悪い方向にもいってしまうこともあるが、文太たちはいいほうに連鎖させるお仕事なのだ。道路工事とか水道工事とかそういうささやかな労働をしている人たちによってライフラインが守られているように。

それで、文太は「人知れず他者を救うということは己を助けること」という気づきを得る。でもそれを兆がたしなめる言葉が野木ドラマらしい気がちょっとだけした。
「あなたがたはちょっとだけヒーローです。ヒーローといえるほど大した力はない。あくまでちょっとほんのちょっと。ふつうの人間に毛が生えた程度です。吹けば飛ぶような3本の毛が周囲にちやほやされて偉大なヒーローだと勘違いする。名誉欲に溺れた先にあるのは破滅です」
しんどい世の中で生きてきて、ごくまれに報われることもあるだろう。SNSでやけにバズって時代の語り部みたいになる確率が以前よりもちょっとだけ上がっているような時代だ。そこでヒーローになったように勘違いしてしまってはいけないのだと思う。あるいは誰かを神格化しすぎてもいけないのだと。

これからの『ちょっとだけエスパー』は未確認因子が増加して、ミッションを増やさないといけなくなるかもしれない。大きな話になっていくのか、それとも、このままずっとささやかな人助けの日々が続くのか。文太のハチと円寂の電気と桜介の花と半蔵の動物と四季の風……などなどが合わさって大きな力になるときがくるのか――。
これまでの物語で筆者が好きだったのは、線香花火。線香花火にそれぞれ名前がついていて文学的で叙情的で評判がよかった場面だ。線香花火がパチパチと落下していく炎の連鎖はノナマーレにある無数の枝分かれした図のようにも見えた。線香花火の仕組みはどうなっているのかネットで調べてみたら、数年前に線香花火の仕組みの研究のニュースがあった。
「火球を飛び出した液滴が最大8回も連鎖的に分裂しながら描く軌跡が松葉火花を形成することが判明した。通常の固体や液体は1~2回分裂すると安定するが、線香花火では孤立液滴が何世代にもわたって子液滴を作り続ける。線香花火の独特の美しさは、従来知られていた分裂現象とは異なる液滴の連鎖分裂によって生み出されていたことが明らかになったという」(※)

こういう連鎖分裂とも関係あるのかもしれない。野木亜紀子の書くものは化学や数学の秩序然とした数式の美やロマンがあって、それはすこしひんやりして、そしてあたたかさもある。
第4話で文太と四季がハチのネックレスとストラップを買ったときのディスプレーも枝になっていて、ビジュアル面でも仕掛けがあるんじゃないかと楽しんでいる。
参照
※ https://www.t.u-tokyo.ac.jp/hubfs/shared-old/press/data/setnws_20170214105314409952431139_947388.pdf
■放送情報
『ちょっとだけエスパー』
テレビ朝日系にて、毎週火曜21:00~21:54放送
出演:大泉洋、宮﨑あおい、ディーン・フジオカ、宇野祥平、北村匠海、高畑淳子、岡田将生
脚本:野木亜紀子
監督:村尾嘉昭、山内大典
エグゼクティブプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、山形亮介(テレビ朝日)、和田昂士(角川大映スタジオ)
音楽:髙見優、信澤宣明
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日
©︎テレビ朝日
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