映画監督・小田和正の“戦い”の日々が詰まった青春の一作 『緑の街』に込められた映画愛

小田和正が『緑の街』に込めた映画愛

 先にも述べた通り『緑の街』の中で描かれる出来事は、小田の実体験が元になっている。「リスクばかりでビジネスにはならない。ボロクソに叩かれるのは最初から目に見えている」と社長に怒られ、スポーツ新聞に「異業種監督なんてダメ!」と書かれ、現場のスタッフに「何もわかっちゃいねえんだよ」と毒づかれる。

 助監督に映画の現場の感想を尋ねられたときの「なんだか戦いだな。毎日が」という草介の答えも、『いつか どこかで』を撮影していた頃の小田の感想そのものだ。草介がスタッフに殴りかかる乱闘騒ぎの場面や、スタッフが撤収する中たったひとりでずぶ濡れになる草介の場面からは、当時の小田の気持ちが痛いほど伝わってくる。

 無論、『緑の街』の撮影も一筋縄では行かなかった。CSホームドラマチャンネルで同時に放送される映画『緑の街』メイキング「LIFE-SIZE KAZUMASA ODA 1997」を見ると、小田の「戦い」ぶりがよくわかる。とはいえ、前回の失敗を生かした小田の監督ぶりは堂に入ったもの。盟友・泉谷しげるの存在も心強かったようだ。

 一方で、映画作りは小田にとって未知の可能性が詰まったものであり、いつも新鮮な気持ちでいられる場所だった。『緑の街』の「緑」とは、フレッシュな若葉の季節を意味しているような、映画の劇中作品の『遠い海辺』は、可能性に満ちた若手アーティスト(河相我聞)と若手女優(中島ひろ子)が主人公だった。彼らもまた草介と同じく小田の分身なのかもしれない。

 『緑の街』は、大きなトラブルに見舞われることなく無事に完成。配給は自分が設立したファー・イースト・クラブで行い、劇場公開の前に全国160の会場をめぐる「シネマツアー」を開催して、各会場は大盛況となった。前作から5年を経て、小田は映画にリベンジを果たしたと言えるだろう。劇中映画『遠い海辺』の中で、ヒロインの信子が語ったセリフは、小田の映画に対する気持ちが表れているように聞こえる。

「やっぱり会って良かった。時はそんなに意地悪じゃないね」

■放送情報
映画『緑の街』
ホームドラマチャンネルにて、11月16日(日)18:30~放送
監督・脚本・音楽:小田和正
出演:渡部篤郎、中島ひろ子、尾藤イサオ、河相我聞、林泰文、角替和枝、武田鉄矢、泉谷しげる
※映画本編終了後に映画「緑の街」メイキング『LIFE-SIZE KAZUMASA ODA 1997』も放送
※12月14日(日)には『キャディ 青木功/小田和正~怒られて、励まされて、54ホール』も放送
小田和正セレクション特設ページ:
https://www.homedrama-ch.com/special/odakazumasa

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