“久部”菅田将暉のクズっぷりが炸裂 『もしがく』第7話にあふれる三谷幸喜作品らしさ

“クベ版「夏の夜の夢」”の初日が終わり、久部(菅田将暉)は事故に遭ったうる爺(井上順)の代役として是尾(浅野和之)にボトム役を依頼する。しかし是尾は「夏の夜の夢」を演じることを拒否し、代わりに「冬物語」のリオンティーズ役をやらせろと要求。すっかり是尾に心酔している久部はそれを易々と引き受けるのである。『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(フジテレビ系)は、11月12日に放送された第7話から“第二幕”が始まった。
劇中でも語られていた通り、「冬物語」はシェイクスピアの後期の名作のひとつ。WS劇場に併設している店(第1話で久部がぼったくられた、ある意味でこのドラマのはじまりの場所だ)の名前のもとになっている「ペリクリーズ」に、登場人物たちが劇場の外で集まるほぼ唯一の場所といってもいいジャズ喫茶の店名にそのまま引用されている「テンペスト」などと同じロマンス劇であり、悲劇性を伴った喜劇でもある。第一幕が「夏の夜の夢」さながらのコミカルでドタバタした様相だったように、この第二幕は「冬物語」になぞらえるのだろうか。

さて、そうしたなかで、前回の是尾につづいてまた新たな登場人物が物語に加わってくるのである。トロ(生田斗真)という男であり、まだその素性については多くは語られていないが、リカ(二階堂ふみ)とは親密な関係にあることがわかる。リカに好意を抱いているであろう久部は当然のように狼狽し、また新たな三角関係が形成される。すでに久部をめぐってのリカと樹里(浜辺美波)、樹里をめぐっての久部と蓬莱(神木隆之介)のふたつの三角関係がそこに存在しているだけに、これはなかなか複雑な――むしろここまで厄介に絡み合うのは、これが恋愛劇ではなく喜劇であることのあらわれかもしれない。

また、今回のエピソードでは“コントオブキングス”の2人が物語の中心に据えられている。テレビ局のプロデューサーから声をかけられ、コンビを解消して単独で仕事を依頼されるはるお(大水洋介)と、はるおが自分の元から離れてしまうことを受け入れようとしながらも苦悩するフォルモン(西村瑞樹)。うる爺が事故でフェードアウトしているのとは異なる方法論をもって、この“八分坂”という環境から出ていく者を描写する。それも単に出入りを繰り返すというわけではなく、はるおの場合は限定された空間から広い世界へと巣立っていく。本作が“青春群像劇”であることを思い出させてくれる一連だ。

それにしても、このままテレビの仕事を引き受けるべきかとはるおが久部に相談を持ちかけるテンペストでのシーンは秀逸。「自分の幸せをつかむのに、なんの遠慮がいる」と背中を押したのも束の間、舞台を降板すると聞かされ「筋が通らない」と手のひらを返す久部。たまたま大瀬(戸塚純貴)がその話を知り、内緒にすると約束したのにあっさりとフォルモンたちに話してしまう切り返しと、はるおがプロデューサーからもらった150万円(その金額の割に、ずいぶんと仰々しいアタッシュケースだ)をちゃっかり着服して劇場の売上金に加えようと画策する久部。

ドラマティックな思慮深さと、コメディとしての軽率さが混在することで、軽妙な笑いを生むあたりはいかにも三谷幸喜作品らしい。それらの果てに、見て見ぬふりをしていた劇場の先行きの不安定さを蓬莱に突きつけられた久部が、ひとり稽古に打ち込むトニー(市原隼人)のもとに近付くラスト。めきめきと演技者としてのスキルを培っていくトニーに演出をかけながら、堪えきれない涙を流す。淡々と進行するこのドラマに、いよいよ情緒――それも、まだ散らかったままだ――が与えられはじめたようだ。
1984年の渋谷を舞台に、脚本家・三谷幸喜の半自伝的要素を含んだ完全オリジナル青春群像劇。「1984年」という時代を、笑いと涙いっぱいに描いていく。
■放送情報
『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』
フジテレビ系にて、毎週水曜22:00~22:54放送
出演:菅田将暉、二階堂ふみ、神木隆之介、浜辺美波、戸塚純貴、アンミカ、秋元才加、野添義弘、長野里美、富田望生、西村瑞樹(バイきんぐ)、大水洋介(ラバーガール)、小澤雄太、福井夏、ひょうろく、松井慎也、佳久創、佐藤大空、野間口徹、シルビア・グラブ、菊地凛子、小池栄子、市原隼人、井上順、坂東彌十郎、小林薫ほか
脚本:三谷幸喜
主題歌:YOASOBI「劇上」(Echoes / Sony Music Entertainment (Japan) Inc.)
音楽:得田真裕
プロデュース:金城綾香、野田悠介
制作プロデュース:古郡真也
演出:西浦正記
制作著作:フジテレビ
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