『秒速5センチメートル』に至る“新海誠イズム”の原型 『ほしのこえ』はハッピーエンド?

『ほしのこえ』は『秒速』以前の新海誠の原型

 まず『マイガール』や『鉄楽レトラ』の佐原ミズが手がけたコミカライズ版では、異星生命体・タルシアンの襲撃により、第三次プロジェクト艦隊がほぼ壊滅状態となる。メンバーの美加子は何とか生き残ったものの、船内での待機を強いられている状態。その際に救助部隊のリストで“昇の名前”を見つけるという展開が描かれ、アニメ版よりもわずかに希望を感じさせるラストで幕を閉じた。

 さらにその先の物語が描かれたのが、作家・大場惑が執筆を手掛けた小説版。救助隊の一員として邂逅地点に降り立った昇は、200人近くのオペレーターが集まる艦内で、ついに美加子と再会を果たす。つまり時間と距離に隔てられたふたりの物語は、まごうことなきハッピーエンドで締めくくられるのだ。

 新海監督の初期作品といえば、“切ない終わり方”というイメージが強い。『秒速5センチメートル』に関しても、主人公・遠野貴樹の初恋が最後まで実ることはなく、運命的な再会も果たせないまま物語は幕を閉じる。『言の葉の庭』も結ばれたとも別れたともいえない、淡い余韻を残す結末だった。だからこそ『君の名は。』で瀧くんと三葉が再会を果たしたときには、ファンのあいだで「新海誠がハッピーエンドに舵を切った」と話題になっていたのだ。

 そして『ほしのこえ』も、「新海作品=切ない結末」というイメージを定着させた作品のひとつと言えるだろう。しかしコミカライズ版や小説版で描かれた“もうひとつの結末”を知ると、作品に対する印象は大きく変わるかもしれない。

 もっとも、これらは新海監督本人が執筆した作品ではないので、小説版のラストを“公式の結末”とみなすかどうかは議論が分かれるところ。それでもアニメ版で描かれなかった“その先”を描くことで、長年ファンのあいだで語られてきた疑問にひとつの答えを提示しているのは確かだ。

 こうした解釈の余地を与えて受け手の想像力を刺激してくるのも、新海ワールドの魅力だ。バッドエンドと受け取られることが多い『秒速5センチメートル』も、あらためて観ることで新たな視点を発見できるかもしれない。

■放送情報
『秒速5センチメートル』
フジテレビにて、10月24日(金)24:45~26:05放送 ※関東ローカル
原作・脚本・監督:新海誠
©︎Makoto Shinkai CoMix Wave Films

『言の葉の庭』
フジテレビにて、10月31日(金)24:45~25:45放送 ※関東ローカル
原作・脚本・監督:新海誠
©︎Makoto Shinkai CoMix Wave Films

『雲のむこう、約束の場所』
フジテレビにて、11月7日(金)24:45~26:35放送 ※関東ローカル
原作・脚本・監督:新海誠
©︎Makoto Shinkai CoMix Wave Films

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