“乗る恐怖”から“見る物語”へ 『ホーンテッドマンション』が挑んだ映画的仕掛け

映像設計としての“ライド体験”
次にウォルドロンが重視したのは、レンズによって“現実と幻想の境界”を描き分けることだった。
「我々は現実世界をTシリーズ・レンズで、そして幽霊の世界を改良版Gシリーズで撮影しました。Tシリーズはより古典的で整った印象に、Gシリーズは収差やフォーカスの甘さ、アナモルフィックなゆがみを活かして、異界の視覚感を生み出しています」(※2)
TだのGだの言われてもいま一つピンとこないが、Tシリーズは解像度が高くシャープな映像を、Gシリーズは焦点をわずかに甘くすることで、空気の厚みを感じさせる映像を作り出すことができる。その質感の差が、明るい廊下、薄暗い墓場、光る鏡など、アトラクションの部屋ごとに変わる体験を生み出した。映画はシーンの切り替えごとに「空間の温度」を変化させ、観客の視覚をまるでライドのように揺らす。
さらにウォルドロンは、光と色で館の呼吸を表現することにも心を砕いた。
「暖色と寒色のコントラストを多用し、実際のランプや蝋燭、焚き火、月光の筋といった実在する光源を組み合わせることで、柔らかく、塵を含んだ絵画的な質感を出したんです」(※3)

暖かい橙色と冷たい青色が交差する映像は、まるでアトラクションの“動く壁紙”のように呼吸している。そしてシミエン監督が意識したのは、アトラクションを思わせるカメラの動きだ。
「私たちは、ディズニーランドのアトラクションで最初に屋敷を目にする角度にまで、徹底的にこだわりました。門の向こうに屋敷の柱が見えるあの一瞬、アングルを外すわけにはいきません。それくらい細部にまで神経を注ぎました。そして、ダイニングホールを滑るように進んで、ワルツを踊る幽霊たちが見えてくるあの瞬間、そのアングルも完璧でなければなりませんでした。なぜなら、ライドの中で観客が思わず息を呑むのが、まさにその光景だからです」(※4)
カメラは観客を導く案内役のように屋敷の中を進んでいく。つまり、恐怖を正面から“見せる”のではなく、観客を“導き入れる”。この誘導の設計こそが、『ホーンテッドマンション』が“乗る恐怖”を“見る物語”へと置き換えるための、最も映画的な仕掛けなのである。

それは、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2023年)や『グランツーリスモ』(2023年)といった、近年の“体験型IPの映画化”とも呼応するアプローチ。いずれも、ゲームやアトラクションという能動的体験を、映像という受動的体験に変換しようと試みている。
幽霊屋敷を“生きているセット”として撮り、ディズニーランドで記憶に刻まれた「揺れ」「風」「暗闇」を、映像と音響で再構築する――この設計思想が、映画『ホーンテッドマンション』を支えている。10月24日の金曜ロードショー放送時には、そのあたりも頭の片隅に入れて鑑賞すると楽しさが倍増するはずだ。しなかったらごめんなさい。
参照
※1、※2. https://rue-morgue.com/interview-disneys-haunted-mansion-cinematographer-jeffrey-waldron-gets-ghostly/
※3. https://www.cinematography.world/cinematographer-jeffrey-waldron-discusses-the-distinct-styles-he-helped-craft-for-haunted-mansion-and-you-hurt-my-feelings/
◼️放送情報
『ホーンテッドマンション』
※初放送・本編ノーカット
日本テレビ系にて、10月24日(金)21:00〜23:29放送
監督:ジャスティン・シミエン
脚本:ケイティ・ディポルド
製作:ダン・リン、ジョナサン・アイリック
製作総指揮:ニック・レイノルズ、トム・ペイツマン
音楽:クリス・バワーズ
出演:ラキース・スタンフィールド(八代拓)、ティファニー・ハディッシュ(土屋アンナ)、オーウェン・ウィルソン(片岡愛之助)、ダニー・デヴィート(温水洋一)、ロザリオ・ドーソン(田村睦心)、ジェイミー・リー・カーティス(小林幸子)、ダン・レヴィ(興津和幸)、ジャレッド・レト(吉見一豊)
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