『ホーンテッドマンション』に感じる異様な奥行き 娯楽作にとどまらない内容になった理由

『ホーンテッドマンション』の異様な奥行き

 ディズニーアニメーションを原作とした実写映画化シリーズを、ディズニー自身が続々製作、公開しているのと同様、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズや『ジャングル・クルーズ』(2021年)など、ディズニーパークのアトラクションを題材にした実写映画も作り続けられている。

 世界中のディズニーパークにあるお化け屋敷アトラクションを題材に、2003年にエディ・マーフィー主演で実写化された『ホーンテッドマンション』もその一つだった。この度、20年ぶりに公開された同名作品は、また新しく再映画化されたもの。そんな今回の『ホーンテッドマンション』は、前作と比べても地域色や人種の問題を強調し、娯楽作にはとどまらない興味深い背景のある内容となった。ここではそんな本作が、本質的にどんな意味を持っているのかを明らかにしていきたい。

 舞台はニューオーリンズ。医師でシングルマザーのギャビー(ロザリオ・ドーソン)は、まだ小さな息子のトラヴィス(チェイス・ディロン)とともに、破格の値段で手に入れた古い豪邸に移り住む。しかし新居には幽霊が多数住んでおり、怪現象が多発する事態に。助けを求める彼女たちのもとに集うのは、神父のケント(オーウェン・ウィルソン)、物理学者のベン(ラキース・スタンフィールド)、霊媒師のハリエット(ティファニー・ハディッシュ)、歴史学者のブルース(ダニー・デヴィート)。この面々が力を合わせ、屋敷の幽霊たちの脅威に挑むことになる。

 恐怖演出は、前作に比べ時代なりの進化を遂げている。とくに鏡を使った場面では、観客の意識を逸らせた上で幽霊を出現させるフェイントを使ったり、降霊術によって、生者の世界から死者の世界へ意識を飛ばす表現を、現実の“裏面”のように描く、ジェームズ・ワン監督らの『インシディアス』シリーズを想起させるなど、トレンドに寄った楽しみ方ができるようになっている。

 同時に、コメディ描写はホラー描写よりもむしろ多く感じるほど作中に散りばめられている。この、辛味と甘味のバランスがとれていることで、ファミリー層が楽しめる内容になっているのだ。キャストにはコメディ巧者も多く、登場人物それぞれの掛け合いのレベルが非常に高い。とくにティファニー・ハディッシュのシーンは全て笑えてしまうくらいに面白く、いつまでも観ていたいほどだ。

 だが、本作の魅力はそのような表面的な部分だけにとどまらない。作品世界に、何か異様な奥行きがあるように感じられるのである。面白いことに、監督のジャスティン・シミエンは、大学時代にディズニーランドのキャストとして働いていた経験があり、ホーンテッドマンションにも造詣が深いのだという。そんなアトラクションへの理解の深さが、本作に活かされているのだと思われる。(※)

 お化け屋敷アトラクションのホーンテッドマンションは、世界にあるディズニーパークのうち、カリフォルニア、フロリダ、東京に存在し、パリでは「ファントム・マナー」、香港では「ミスティック・マナー」という名称のアトラクションとして知られている。屋敷の中には999体の幽霊が待ち構えていて、訪れるゲストを1000体目にしようと待ち構えているという設定。2003年版の映画では、パリの「ファントム・マナー」から多くの設定を利用していたという。だが本作は最も歴史のある、カリフォルニアのディズニーランドのホーンテッドマンションをモデルにしているようだ。

 東京ディズニーランドのホーンテッドマンションの外観は、フロリダのディズニー・ワールド「マジック・キングダム」にあるのと同様、オランダ風のレンガ建築を利用したゴシック調のものとなっている。東京では、ホーンテッドマンションは施設内の「ファンタジーランド」に配置されたが、もともとカリフォルニアのホーンテッドマンションは、「カリブの海賊」や「ブルーバイユー・レストラン」などがある、アメリカ南部を題材にした「ニューオーリンズ・スクエア」というテーマランドに置かれている。

 その外観は、アメリカ北東部、メリーランド州の屋敷を基にしているともいわれるが、コンセプトとしては南部のプランテーション経営者が住んでいた、典型的な「ビッグハウス」を想定したものだと考えていいだろう。だからこそ、本作の舞台はわざわざニューオーリンズに設定され、ホーンテッドマンションは南部の「ビッグハウス」として表現されているのだ。

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