若者の間で広がる「自認レゼ」ミーム 自分自身を重ねたくなるキャラクターのメカニズム

若者の間で広がる「自認レゼ」ミームとは?

“完璧じゃないキャラ”に惹かれる視聴者

 第一に、能力が高く、どこか孤独を抱えているということだ。聡明で有能でありながら、心の奥に傷や劣等感を隠している。表面的には冷静でクール、または振り切って明るく見えるが、内面には誰にも言えない痛みがあるキャラだ。

 第二に、容姿に関する絶妙なバランスだ。メインキャラほど華やかではないが、実は容姿が整っている。または派手さはないが美形、あるいは地味に見えて実は端正な顔立ちをしている。そんな「控えめな美しさ」を持つキャラクターが選ばれやすい。

 そして第三に、物語における立ち位置である。彼女たちは世界の主役ではなく、観察者の位置にいる。物語の中心から少しずれた場所で世界を見つめ、時に蚊帳の外に立ちながらも、誰よりも冷静に世界を理解しているキャラが多い。

 例えば「自認○○」としてよく挙げられる『薬屋のひとりごと』の猫猫、『僕のヒーローアカデミア』のトガヒミコ、『鬼滅の刃』の胡蝶しのぶなどは、まさにこうした条件を満たしたキャラクターだ。

 猫猫は薬学に精通し、宮中で次々と事件を解決していくが、その淡々とした態度の裏には複雑な生い立ちがある。胡蝶しのぶは常に微笑みを絶やさない柱でありながら、姉を失った悲しみを秘めている。トガヒミコは猟奇的思考の持ち主であるように見えて、受け入れられなかった自分の本質に苦しんできた。

 さらに『薬屋のひとりごと』の猫猫は、物語のポジションとしては主役だが、その振る舞いを見れば観察者としての性質がよくわかるだろう。宮廷という華やかな世界の中で、常に一歩引いた立場で立ち回り、壬氏をはじめとする人々の思惑を冷静に見つめながら、自分はあくまで傍観者であろうとする姿はまさにこの特徴にぴったり当てはまる。

 そして彼女たちに共通するのは、完璧ではないということだ。「普通とは違う特別な存在」でありながら、どこか不器用で、程度に差はあれど傷ついている。あえて“厨二病”的文脈で言うのであれば、「私も周りと違う」「私も本当の自分を理解していない」。そんな視聴者の孤独感や疎外感と彼女たちの在り方が重なり合い、「投影したくなる存在」になるのだろう。

「自認マキマ」がいない理由

 一方で、冒頭でも少し触れたが『チェンソーマン』のマキマや『鬼滅の刃』の甘露寺蜜璃は、どちらも圧倒的な魅力を持つ人気キャラクターでありながら、自己投影の対象にはなりにくい。それは彼女たちが憧れの象徴ではあるものの、「自分に似ている」とは思いにくい存在だからだ。

 マキマのような圧倒的に美しく支配的な人物像、蜜璃のようにまっすぐ愛を語れる天真爛漫さ。どちらも、どこか自分とは別の次元にいるように感じる視聴者が多いのかもしれない。おそらくそこには「なりたいけれど、なれない」という明確な一線がある。

 対して、自己投影されやすいキャラクターは、その一線の手前、「もしかしたら、私もこうかもしれない」と思わせる絶妙なラインに立っている。手が届きそうで届かない、けれど完全に遠くもない。その曖昧な距離感が、投影を可能にする要素なのだろう。

 創作の指南書では「葛藤がキャラクターを魅力的にする」とよく言われる。だが、メインキャラクターの葛藤はしばしば壮大すぎる。世界を救う、運命と戦う……そうした重すぎる使命は、憧れの対象にはなっても、自分と重ねるには遠すぎるのではないか。

 対して、自己投影されやすいキャラクターの葛藤は、もっと身近だ。居場所のなさ、関係性のもつれ、理解されない孤独。それは日常の延長線上にある、誰もが一度は感じたことのある痛みである。

 彼女たちは世界の中心ではなく、あくまでその周辺で静かに世界を見つめている。その姿が、「決して特別ではないけれど、痛みを知っている自分」という現代のファンの感覚と重なるのだろう。「自認○○」という現象を掘り下げていけば、今の観客がキャラクターに求めているものの輪郭が、きっと見えてくるはずだ。

■公開情報
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』
全国公開中
キャスト:戸谷菊之介(デンジ)、井澤詩織(ポチタ)、楠木ともり(マキマ)、坂田将吾(マキマ)、ファイルーズあい(パワー)、高橋花林(東山コベニ)、花江夏樹(ビーム)、内田夕夜(暴力の魔人)、内田真礼(天使の悪魔)、高橋英則(副隊長)、赤羽根健治(野茂)、乃村健次(謎の男)、喜多村英梨(台風の悪魔)、上田麗奈(レゼ)
原作:藤本タツキ『チェンソーマン』(集英社『少年ジャンプ+』連載)
監督:𠮷原達矢
脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:杉山和隆
副監督:中園真登
サブキャラクターデザイン:山﨑爽太、駿
メインアニメーター:庄一
アクションディレクター:重次創太
悪魔デザイン:松浦力、押山清高
衣装デザイン:山本彩
美術監督:竹田悠介
色彩設計:中野尚美
カラースクリプト:りく
3DCG ディレクター:渡辺大貴、玉井真広
撮影監督:伊藤哲平
編集:吉武将人
音楽:牛尾憲輔
配給:東宝
制作:MAPPA
主題歌:米津玄師「IRIS OUT」(Sony Music Labels Inc.)
エンディングテーマ:米津玄師、宇多田ヒカル「JANE DOE」(Sony Music Labels Inc.)
©2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト ©藤本タツキ/集英社
公式サイト:https://chainsawman.dog/
公式X(旧Twitter):@CHAINSAWMAN_PR

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