『もしがく』の舞台が1984年である意味 菅田将暉らが体現するショービジネスの転換期

『もしがく』の舞台が1984年である意味

 10月8日に第2話が放送された『もしがく』こと、『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(フジテレビ系)。前回は第1話ということもあって、“八分坂”という舞台設定と大勢いる登場人物たちを見せることに重点が置かれていたが、WS劇場に足を踏み入れた久部(菅田将暉)が、リカ(二階堂ふみ)の踊る姿に魅了されるラストで、物語のはじまりを予感させた。

 そして今回、久部がWS劇場で働くことになり本格的に物語が動く。ここで重要な役割を担うことになるのは、劇中の時代である1984年秋(ちょうど今回の冒頭シーン、三谷幸喜をモデルにした神木隆之介演じる蓬莱が綴る日記で、「1984年9月」であることが明示されている)をあらわす二つの時代的な要素だ。ひとつは「風営法の改正」、もうひとつは、まさに三谷がその中心人物の一人であった1980年代の「小劇場ブーム」である。

 風営法は戦後に制定されてから現在に至るまで何度も改正されているが、特に大きな変化があったのが1984年の夏の大幅改正(施行されたのは翌年2月)。条文が一気に増やされ、規制の対象が広がり、警察の権限も強化されるなど、風俗営業(いわゆる性風俗に限ったものでなく、ディスコやパチンコなども含まれる)に対する“適正化”が推し進められることとなった。その内容を細かく見るとややこしいので割愛するが、本作を観るうえでは「ストリップ劇場もその対象であること」「規制が厳しくなった過渡期のため、思い切ったことをやったら摘発されて営業できなくなる」ぐらいを頭に入れておけば差し支えないだろう。

 規制が強化されると、きちんとルールを守って正しくやっているところも客足が遠のいてしまうのは今も昔も変わらない。そもそもストリップ劇場のショーの内容が、公然わいせつ罪に該当するのか否かという問題は風営法ができてから現在まで何度も起こっており、つい最近も摘発事例があったばかりである。何はともあれ、派出所の大瀬(戸塚純貴)が劇場に頻繁に足を運び、風営法に違反するショーが行われていないかをチェックして笛を吹くくだりは、さながら『ニュー・シネマ・パラダイス』のようである。

 もうひとつの「小劇場ブーム」については、この十何年も前から小劇場の人気はあったものの、学生劇団が増えてきたり、劇中でも語られるように下北沢や新宿に小劇場が相次いで作られたりした1980年代が、まさにそのブームの最盛期。久部が演出を務めていた劇団・天上天下が公演をやろうとしていた小劇場「ジョン・ジョン」も、渋谷にあった小劇場「ジァン・ジァン」にシェイクスピアの「ジョン王」を掛け合わせたものだろう。

 こうした二つの時代背景をもって、久部はWS劇場を芝居小屋として立て直すことを高らかに宣言する。いわば、ストリップ劇場というショービジネスの終焉と、小劇場演劇という当時の先端をいくショービジネスの始まりとが重なる瞬間である。また、序盤に久部が八分神社に忘れ物を届けに行った際、樹里(浜辺美波)に言い放つ「ストリップがなぜビジネスとして成り立つのか。見にくる人がいるからです」という言葉と、中盤に劇場支配人の大門(野添義弘)が久部に対して話す「ストリップは変化する。客が求めているものに合わせて」言葉の差も、それをあらわしている。

 まさしくショービジネスの転換期であり、同時に大門が“額縁ショー”(新宿にあった帝都座で1947年に行われた、日本初のストリップである)のことを話したり、かつてレヴューで踊っていたという大門の妻のフレ(長野里美)や案内所のおばば(菊地凛子)がタップダンスを披露していたり。戦後から変化を続けながら脈々とつなげられてきたショービジネスの歴史の生き証人たちがまだ活き活きとしていた時代であることにも、このドラマが1984年である意味を見出すことができよう。

『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』の画像

もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう

1984年の渋谷を舞台に、脚本家・三谷幸喜の半自伝的要素を含んだ完全オリジナル青春群像劇。「1984年」という時代を、笑いと涙いっぱいに描いていく。

■放送情報
『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』
フジテレビ系にて、毎週水曜22:00~22:54放送
出演:菅田将暉、二階堂ふみ、神木隆之介、浜辺美波、戸塚純貴、アンミカ、秋元才加、野添義弘、長野里美、富田望生、西村瑞樹(バイきんぐ)、大水洋介(ラバーガール)、小澤雄太、福井夏、ひょうろく、松井慎也、佳久創、佐藤大空、野間口徹、シルビア・グラブ、菊地凛子、小池栄子、市原隼人、井上順、坂東彌十郎、小林薫ほか
脚本:三谷幸喜
主題歌:YOASOBI「劇上」(Echoes / Sony Music Entertainment (Japan) Inc.)
音楽:得田真裕
プロデュース:金城綾香、野田悠介
制作プロデュース:古郡真也
演出:西浦正記
制作著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/moshi_gaku/
公式X(旧Twitter):@moshi_gaku
公式Instagram:@moshi_gaku
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