『もしがく』“菅田将暉=久部三成”の必然性 現実離れしたテンションがクセになるワケ

やっとのことで残暑も薄れてきた10月ーー2025年秋クールのドラマが続々とはじまっている。その先陣を切ったのが、『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(以下、『もしがく』/フジテレビ系)だ。三谷幸喜が脚本を手がける、コメディタッチの青春群像劇である。
今回の“三谷ワールド”を盛り上げるのもまた、若手からベテランまでの非常に豪華な面々。これを座長として率いるのが、菅田将暉だ。ここでは本作における彼の存在にフォーカスしてみたい。
この『もしがく』が描くのは、1984年の渋谷で生きる者たちの人間模様。「八分坂」という架空の商店街を舞台として、物語が繰り広げられていくこととなる。そのような作品で菅田が演じるのは、物語の中心に立つ久部三成というキャラクター。あの蜷川幸雄に憧れ、理想のシェイクスピア劇を作ろうと奮闘する若手演出家である。かなり熱い人物だ。

演劇に対する久部の情熱はどれほどのものか。第1話を視聴してみて、呆気に取られてしまった方は少なくないのではないだろうか。物語は彼が所属する劇団「天上天下」を追放されるところからはじまった。たしかに、追放されても文句はいえないだろうというか、いち視聴者としてはそれが妥当だと頷かざるを得ないほどの横暴ぶり。自身の理想の“演劇観”を劇団員に押しつけ、目を吊り上げながら灰皿を振りかぶってみせる。やはり追放されてもしょうがない人物だ。これを菅田はドラマの冒頭で熱演してみせた。
個人的に“熱演”という言葉をポジティブな文脈で使うことはほとんどない。俳優が役を演じることに熱中するばかりで、肝心のキャラクターはその物語世界を生きていないと感じてしまうからだ。演じる役よりも、演じる本人が私たち観客/視聴者の眼前に迫ってくるーーこれが“熱演”と称されるものだと思う。作品のタイプにもよるが、すべての出演者がこの状態に陥っていては、登場人物たちを取り巻く物語世界は崩壊してしまうだろう。俳優のエゴイスティックな暴走によって、作品を台無しにしてしまいかねない。しかし、ときにこういった熱演が求められる役柄がある。それが『もしがく』における久部三成だ。
導入部を作った菅田将暉の“熱演”

本作はタイトルが示すとおり、私たちの生きる世界を“舞台”になぞらえている作品だ。1984年の渋谷の「八分坂」は文字どおりの“舞台”であり、登場人物たちは誰もがみな役者。繰り広げられる物語は上演演目である。
これを率いるのが座長の“菅田将暉=久部三成”。第1話で“彼ら”がまっとうすべき役割は、これから『もしがく』が描こうとしている“三谷ワールド”へと私たちを誘うことだった。やがて『もしがく』の放送を待ちわびていた我々は、個性的なキャラクターたちが作り上げる世界観に触れ、この人々が織り成す物語の深いところへと足を踏み入れていくことになる。この導入部を作ったのが、菅田のあの熱演なのだ。

久部のエゴイスティックな発言に早々にうんざりし、セリフ回しも表情もオーバーな菅田の演技に、私たちはびっくりする。いきなり置いていかれそうになった方もいるだろう。けれどもドラマはまだはじまったばかりだ。“彼ら”の一挙手一投足に目を凝らし、その声に耳を傾けてみる。するとしだいに、どこか現実離れした『もしがく』のテンション感が掴めてくるようになる。気がつけば、ちょっとクセになっている。さあどうだろう。ここまでくれば私たちもまた「八分坂」の住人になっているのではないだろうか。連続ドラマは初回こそが命だが、菅田は見事に成功に導いてみせたと思う。
座長の菅田将暉が灯した物語の明かりは、これからどのようにして受け継がれ、何を照らしていくのか。多彩な共演者たちとのかけ合いから、目が離せない。
1984年の渋谷を舞台に、脚本家・三谷幸喜の半自伝的要素を含んだ完全オリジナル青春群像劇。「1984年」という時代を、笑いと涙いっぱいに描いていく。
■放送情報
『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』
フジテレビ系にて、毎週水曜22:00~22:54放送
出演:菅田将暉、二階堂ふみ、神木隆之介、浜辺美波、戸塚純貴、アンミカ、秋元才加、野添義弘、長野里美、富田望生、西村瑞樹(バイきんぐ)、大水洋介(ラバーガール)、小澤雄太、福井夏、ひょうろく、松井慎也、佳久創、佐藤大空、野間口徹、シルビア・グラブ、菊地凛子、小池栄子、市原隼人、井上順、坂東彌十郎、小林薫ほか
脚本:三谷幸喜
主題歌:YOASOBI「劇上」(Echoes / Sony Music Entertainment (Japan) Inc.)
音楽:得田真裕
プロデュース:金城綾香、野田悠介
制作プロデュース:古郡真也
演出:西浦正記
制作著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
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