『いつか、無重力の宙で』毎話15分とは思えない濃密さ “二つの物語”を成立させる秀逸な脚本

『いつか、無重力の宙で』濃密な毎話15分

 飛鳥たちにとっては辛辣な一言だが、研究の当事者である彗にこの台詞を言わせたことで、物語が一気に引き締まったように感じた。

 劇中では天文部の4人の高校時代の姿が回想シーンとして描かれる。学生時代の4人を演じる田牧そら、上坂樹里、白倉碧空、山下桐里がとても魅力的で、過去パートだけ抜き出しても青春ドラマとして見応えがある。おそらく一本のドラマの中に現在と過去の二つの物語が同時に走っているため、各話の密度が高く感じるのだろう。

 第12話では高2の夏に4人が授業を抜け出して皆既日食を見たエピソードが描かれており、学生時代の晴子が生き生きと描かれており、実に楽しかった。

 第5話の回想で「4人でいればそこはいつでも宇宙になった」という天の声(柄本佑)の語りがあった。これは第1話冒頭に天の声によって語られた「大人になるにつれ、この世界の重力は少しずつ大きくなっている……気がする」という飛鳥の心境と対になっているのだが、タイトルの『いつか、無重力の宙へ』が、重力の大きくなっていく重苦しい現実を忘れて、キラキラしていた「学生時代」という宇宙に戻りたいという意味だったら、少し寂しいなと心配している。

 その意味でも重要なのは、4人の宇宙の外側にいる彗の存在だろう。今後、4人に彼がどう関わっていくのか楽しみである。

■放送情報
夜ドラ『いつか、無重力の宙で』
NHK総合にて、毎週月曜から木曜22:45~23:00放送
出演:木竜麻生、森田望智、片山友希、伊藤万理華、奥平大兼、田牧そら、上坂樹里、白倉碧空、山下桐里、鈴木杏、生瀬勝久
天の声(語り):柄本佑
脚本:武田雄樹
制作統括:福岡利武
音楽:森優太
主題歌:吉澤嘉代子「うさぎのひかり」
プロデューサー:南野彩子
演出:佐藤玲衣、盆子原誠、押田友太
写真提供=NHK

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