『いつか、無重力の宙で』毎話15分とは思えない濃密さ “二つの物語”を成立させる秀逸な脚本

NHK夜ドラ『いつか、無重力の宙で』は、元天文部の女性4人が宇宙を目指す姿を描いた連続ドラマだ。
大阪の広告代理店で働く望月飛鳥(木竜麻生)は入社9年目で現在30歳。職場では上司や後輩に慕われていたが、多忙な日々の中で本当に自分がやりたいことが何なのかわからなくなっていた。そんな時に高校時代に天文部の仲間だった日比野ひかり(森田望智)と再会する。彼女は学生時代の夢を持ち続け、今も宇宙飛行士を目指していたが、血液の癌が再発したことで夢を断念することになってしまう。そんなひかりのために、飛鳥は超小型人工衛星を作ることで宇宙に行こうと考え、天文部の仲間だった水原周(片山友希)と木内晴子(伊藤万理華)にいっしょにやろうと声をかける。
本作が放送されている夜ドラは、月曜から木曜の22時45分から15分間放送されている帯ドラマ枠だ。そのため物語は毎日少しずつ進んでいくのだが、毎話15分とは思えない濃密な内容となっている。

第1週で飛鳥とひかりの再会が描かれた後、第2週では飛鳥が周と晴子に連絡を取る。周は現在、食品メーカーの営業として働いており、30歳になったら宇宙よりも「現実みていかなあかんやん」と言う。そして、彼氏が自分の店を持つのを応援するために時間とお金がかかるからという理由で飛鳥の話を断る。一方、晴子は現在、シングルマザーとして子供を一人で育てながら市役所で働いており「仕事と子供の面倒で手一杯やから」と言って、飛鳥の話を断る。だが、晴子が宇宙に対する関心を失っていないことは、会話の節々から伝わってくる。
その後、周が断った本当の理由は、高校の時に何も言わずにいなくなったひかりが許せなかったからだと明らかとなる。

第8話。飛鳥は周とファミレスで食事をしている時に、周に内緒でひかりと会わせ、理由を説明させる。ひかりは高校3年生の時に1度目の癌を患い入院することになり、天文部の仲間に理由を説明しなかった。何も言ってくれなかった彼女を、周は責めるが「友達だから」言えなかったとひかりは反論。「迷惑かけてもよかった。友達ってそういうものじゃないの? ひかりのそういうところ好きじゃなかった」と、周は心情を吐露するのだが、彼女が怒れば怒るほど、ひかりを大事に思っていたことが伝わってくる。
面白かったのは、仲裁に入った飛鳥に対しても周がイラっとし「何なん? そのさ、自分は両方の言い分わかりますよみたいなそのスタンス、何なん? 何、大人ぶってんの?」と怒りをぶつけたこと。その後、2人は口論となり店員が止めに入るのだが、3人の関係がよくわかる微笑ましいやりとりだ。
脚本を担当している武田雄樹は、2024年にNHKで執筆した「男らしさ」から降りられない3人の男の苦悩を描いた単発ドラマ『高速を降りたら』で注目された期待の新鋭だ。
今作は初めてのオリジナル脚本の連続ドラマだが、飛鳥の職場の描き方を筆頭に上手い脚本だと感じるシーンが多い。だが、この第8話は上手さを超えて、3人の気持ちがストレートに伝わってくる名場面となっていた。

その後、晴子も子供に説得される形で参加することとなり、いよいよ本格的にプロジェクトが始まる。だが、課題は山積みで、中々前に進まない。そんな時に4人がミーティングの場として集まっているファミレスの店員・金澤彗(奥平大兼)が、大学で宇宙工学を学んでいたことが明らかとなる。しかし、彗は飛鳥たちに「本気でやってんですよ、こっちは。そんな青春ごっこのノリみたいに人工衛星作りたいとか言われるの。メチャクチャ嫌なんすよね」と言い放つ。




















