今夏のエンタメシーンを盛り上げた藤木直人 『最後の鑑定人』『グラスハート』での功績 

今夏のエンタメシーンを盛り上げた藤木直人

 とはいえ井鷺は、真の傑物ではない。“ボス”のようではあるが、根底にあるのは天賦の才を持つ藤谷に対するコンプレックスだろう。音楽への深く大きな愛情を持っていながら、彼はいつしかそれをうまく表現できないようになった。ときおり顔をのぞかせる攻撃性はその裏返し。彼の“弱さ”からくるものだと思う。うろたえ、焦りを感じたとき、井鷺は非常に高圧的な言動を取る。藤谷ら他者の才能を前に、自身のプライドや音楽愛が揺らぐからだ。自分という人間を守るため、音楽プロデューサー・井鷺一大という存在を保つため、彼は悪役にならなければならなかった。そう思えてならない。

 こうしたひとりの人間の複雑さと深みを、藤木はこのうえなく見事に体現している。井鷺が焦燥感や不安を抱くたびに取る高圧的で攻撃的な言動からは、ひるがえって、彼の中にある音楽愛が滲み出ているのをたしかに感じる。私たち視聴者にとって悪役になればなるほど、井鷺の持つ弱さがあらわになる。しかしそこにこそ、彼の人間らしい一面があると見るべきだろう。

『グラスハート』Netflixにて世界独占配信中

 一見すると井鷺はいかにも悪役らしいキャラクター然とした存在だが、その心の揺れを藤木が大胆かつ繊細に表現したことで、じつに奥行きのある人物になっている。外面だけでなく、彼の内面にも私たちは触れることができる。『グラスハート』のボスであり、中心人物のひとりとあって、この好演は作品そのものに深みを与えることにもつながる。井鷺一大というキャラクターを、ほかに演じられる俳優がいるだろうか。ちょっと思いつかない。

 この夏のエンタメシーンを盛り上げた立役者のひとりが、俳優・藤木直人である。『最後の鑑定人』での彼は『グラスハート』以上の時間をかけて、ひとりの人間を演じ、その人間性を提示し続けてきた。いよいよ最終話。井鷺のような激しい心の揺れが見られるかもしれない。もうひと盛り上がりしそうである。

『最後の鑑定人』の画像

最後の鑑定人

岩井圭也の同名小説を原作としたサイエンスミステリー。かつて科捜研のエースとして活躍し“最後の鑑定人”と呼ばれていた主人公が、科学的アプローチを駆使して難事件を解決に導いていく。

■放送情報
『最後の鑑定人』
フジテレビ系にて、毎週水曜22:00~22:54放送
出演:藤木直人、白石麻衣、迫田孝也、中沢元紀、阿部亮平、栗原類、松雪泰子ほか
原作:岩井圭也
脚本:及川拓郎、山崎太基、北浦勝大、青塚美穂
主題歌:矢沢永吉「真実」(Z+MUSIC/UNIVERSAL SIGMA)
音楽:橘麻美
演出:水田成英(FCC)、谷村政樹、清矢明子
プロデューサー:石原未菜、宮木正悟、郷田悠(FCC)
プロデュース協力:渡辺良介(大映テレビ)
制作協力:FCC
制作著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/saigonokanteinin/
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