佐藤健が真摯に向き合った本当の“カッコよさ” 『グラスハート』は全てのシーンがカッコいい

カッコいい。全てのシーンがカッコいい。
Netflix『グラスハート』を観ている間、カッコいいという言葉が頭の中をぐるぐると回り続け、観終えた後もしばらく消えず、夢の中にいるみたいだった。
本作はNetflixで配信されている全10話のドラマ。孤高の天才ミュージシャンが率いるバンド「TENBLANK」の活躍を描いた物語だ。

音が気に食わないと言われ、バンドをクビになったドラマーの西条朱音(宮﨑優)は、天才ミュージシャンの藤谷直季(佐藤健)がボーカルを務めるバンド「TENBLANK」にスカウトされる。朱音は、ギターの高岡尚(町田啓太)、キーボーディストの坂本一至(志尊淳)と共に初めてのライブに向けて藤谷とセッションを繰り返していたが、藤谷の要求は厳しく同時にとても理不尽。彼の求める音を出せない朱音は精神的に追い詰められていくが、やがて藤谷が求めていた音が、自分にしか出せない大暴れする音だったことに気付く。
本作は4人組バンドのサクセスストーリーを描いたもので、バンド結成の後、セッションを繰り返し、デビューライブを披露。そして、音楽番組に出演したり、曲作りのために合宿したり、新曲をリリースするといった、新人バンドが経験するイベントが順番に描かれていく。

同時に描かれるのがライバルとの音楽バトル。藤谷に強い対抗心を抱くカリスマユニット「OVER CHROME」のボーカル・真崎桐哉(菅田将暉)との対バンや、藤谷と深い因縁がある大物プロデューサーの井鷺一大(藤木直人)と彼がプロデュースする歌姫の櫻井ユキノ(髙石あかり)のコラボなど、音楽を通して切磋琢磨する様子が描かれる一方で、井鷺が「TENBLANK」に裏から圧力をかけてツアーを妨害しようとするといった音楽業界の闇も描かれる。
また、藤谷を中心としたバンド内の人間関係も見どころ満載。朱音が藤谷に対する恋心を自覚していく過程と、そんな朱音を隣で見守る坂本の片思いといった恋愛模様、あるいはマネージャーの甲斐弥夜子(唐田えりか)の朱音に見せる複雑な嫉妬心も描かれている。そして終盤になると、藤谷が脳に腫瘍があることがわかり、これ以上音楽を続けると命を落とすことが判明。しかし藤谷は音楽を辞めず、命を削って曲作りを続けようとする。バンドメンバーは藤谷の身体を心配してバンドを辞めようというものと、続けようというもので意見が割れるが、最終的にバンドを続けることを選択する。

音楽ドラマの幕の内弁当と言えるぐらい、ドラマチックな要素が盛りだくさんだが、物語があまり印象に残らないのは、役者の存在感とMV(ミュージックビデオ)的な美しさが、物語を大きく上回っているからだろう。
大雨の中で聞こえてきた朱音のドラムのリズムに合わせて藤谷がピアノを演奏するシーンから始まり、本編の映像の大半は、楽器を弾く場面や、ライブシーンに費やされている。朱音が悩みを抱えて夜の街を歩くといったシーンも感傷的な劇中歌が流れるため、どのシーンも、豪華なMVを観ているようで、現実感がどんどん消えていく。




















