『しあわせな結婚』が描いた“家族”とは何か “全てが壊れた”先にネルラの物語が始まる

『しあわせな結婚』が描いた“家族”とは何か

 大石静による完全オリジナル作品『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)が9月11日に最終話を迎える。

 15年前に起こった事件の真犯人が妻・ネルラ(松たか子)かもしれないという疑惑に主人公・原田幸太郎(阿部サダヲ)が向き合うというサスペンス要素に加え、幸太郎とネルラのちょっと変わった夫婦の光景が見ていて微笑ましい大人のラブストーリーの一面あり、随所にちりばめられた演技巧者たちが見せるコメディ要素も絶品と、様々な要素が絶妙な塩梅に調和した作品だった。

 そして何より興味深かったのは、本作が描いた「家族」という、離れがたく、愛すべき檻である。本作が最終的に描こうとしているのは恐らく、鈴木ネルラが、「家」を出ることではないか。決して抑圧的ではない、時にカラオケではしゃいだり、毎年恒例の釣りをして騒いだり、叔父・考(岡部たかし)が毎朝美味しいパンを届けに来てくれたりする、最高に愉快で面白い、快適な「我が家」である鈴木家。一方で、その愉快な日々の裏側には、母と弟・五守の立て続けの死、さらにはネルラの恋人・布施夕人(玉置玲央)の死を乗り越えてきた家族の辛い歴史があり、不幸な出来事が重なることでより強固になっていったのだろう家族の絆がある。

 何より家族とともにいることを「しあわせ」だと感じている人々の言葉の端々には、どこかで「家を出なければ」という思いが滲む。ネルラは、病院のエレベーターで幸太郎と出会った時、とっさに「この人だ」と思ったのは「私を家族から解放してくれるのは“この人だ”と直観したからじゃないかな」と言った。だからこれは「しあわせな結婚」という名の、鈴木ネルラの自立の物語なのだと思う。

 「真実は、既成の価値観を乗り越えた所にある場合もあるんです。一方で、今の世の中でそれを貫くことは容易ではありません。それでも時に突っ込まなければならないことが人生には起きるんです」とは、第6話における主人公・原田幸太郎(阿部サダヲ)の言葉だ。

 幸太郎が恋した鈴木ネルラはまさに「一般常識や既成の価値観」といった概念を超越した存在と言える。第1話で見せた「股関節がちょっと」と片足だけ変な歩き方をすることや「珍しいクロワッサンの食べ方」、常に芸術的な寝相など、彼女は常に、幸太郎だけでなく、視聴者の想像の斜め上をいく存在だった。そしてそこに惹かれた幸太郎は、50年頑なに守ってきた「独身主義」という、それこそ彼自身の「既成の価値観」を捨て去り、苦手なはずの結婚生活を受け入れ、さらには第8話において、ネルラのため、元検事・弁護士・夫としてのあらゆる迷いを取っ払って事件と向き合った結果、誰も掴めなかった「真実」を掴んだのである。

 また、前述した第6話の幸太郎の言葉をテレビ越しに聞くことで感銘を受け、幸太郎のネルラへの愛情を信用するとともに、事件関係者であるネルラへの恋愛感情に似た奇妙な執着を肯定されたような気がして思わず幸太郎に電話する刑事・黒川(杉野遥亮)も、それ以降「刑事としてこうあるべき」という固定観念から解き放たれたように自由に動くようになった。

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