『しあわせな結婚』になぜハマった? オアシス「Don't Look Back In Anger」歌詞を深読み

木曜ドラマ『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)の主題歌として、作品に何とも言えない余韻を与える「Don't Look Back In Anger」。1996年にリリースされたイギリスの人気ロックバンド・オアシスの代表作のひとつであり、全英シングルチャート1位を獲得、YouTubeの再生回数が3.2億回を超える名曲だ。
1994年にデビューした彼らは2009年に解散した後、2024年に再結成。現在開催中のツアー「Oasis Live ’25」には、Mrs. GREEN APPLEの若井滉斗、欅坂46の元メンバーで女優の長濱ねるなど、日本の芸能人も足を運んでいる。
しかし、当然ではあるが彼らの楽曲の歌詞は日本語ではなく、少し聞いただけでは「歌詞が作品の内容とリンクしている」「このフレーズは作中のセリフを取り入れているのかも?」といった体験や感動は味わえない。にもかかわらず、なぜこれほどまでに私たちに強烈な印象を与え、作品をより魅力的に感じさせるのだろうか?
まず、サスペンスにコメディ要素をほどよく混ぜた本作では、「Don't Look Back In Anger」は登場人物の代弁者として鮮やかな活躍をみせる。ほのかに切なく、けれども力強いメロディーと歌声が、三枚目としての役割も多い主人公・原田幸太郎(阿部サダヲ)が妻の鈴木ネルラ(松たか子)に対して抱く愛情と哀しさや、あまり感情が表に出ないネルラの深い悲しみや焦りを表しているように感じられるのだ。
また、主題歌としては欠かせない“作品との調和”には、穏やかに始まり、徐々に自らの感情を晒すように盛り上がるイントロやヴァースが貢献しているように思える。一方的に語るのではなく、聞く人に語りかけるような構成のおかげでこの曲は、ドラマの途中で挿入されたとしても、視聴者が物語の展開や名だたるキャストの演技に魅入るのを遮らない。
そのため、あくまでも自然に、心を動かす“エモさ”を本作に与えられるのではないだろうか。
また、本作の核に近い部分に寄り沿っているのは歌詞も同様だ。直訳すれば「怒りながら振り向かないで」のような意味の「Don't Look Back In Anger」は、公式YouTube動画の日本語訳で「嫌な思い出にはしないで」と表現されている。(※1)ボーカルのノエル・ギャラガーが「過去を振り返るのではなく、前を向くことについて歌った」と語っているように、この曲は“過去”に触れつつ未来を向く曲なのだ。(※2)それは、過去の未解決事件を主題としながらその先へ歩んでいく『しあわせな結婚』にもよく当てはまる。
加えて、“つまんねえ顔してないでさ”、“そんな調子じゃ俺の心に火が点かねえんだよ”と、他人に対する諦めが感じられるような歌詞が多いなか、サビは“サリーは待ってくれるさ”と始まる。どんなに自分と相手の心が離れた瞬間があったとしても、そこにはまだ愛情や、愛とは異なる絆があるのかもしれない。それは、本作の幸太郎とネルラや、幸太郎と鈴木家の人々の不思議な関係性を語っているように思えた。

本作は、鈴木家の家族の歴史や過去の事件など、謎解きのような要素もじつに多い。しかし、この楽曲があるからこそ、あくまでも男女の複雑な恋愛感情や心の揺れ動きを主題とした“マリッジ・サスペンス”として成り立っているのではないだろうか。
そして、オアシスが日本の作品の魅力を深める事例は、『しあわせな結婚』だけにとどまらない。響きの良いメロディーと聞き惚れるボーカルが聞く人の心に自然に染み渡る。
創作物のなかでも特にアニメ好きである筆者が語りたいのは、フジテレビで2009年に放送されたTVアニメ『東のエデン』の主題歌「Falling Down」だ。





















