『ぼくほし』『しあわせな結婚』で頻出 『銀河鉄道の夜』の要素が意味するものは?

粒ぞろいの夏クールにあって、次の放送を心待ちにしたドラマが『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系)と『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)だった。奇しくも両ドラマが下敷きにしたのは宮沢賢治がものした『銀河鉄道の夜』である。
『僕達はまだその星の校則を知らない』で磯村勇斗演じる主人公の名は同音異字の健治だし、健治が繰り返し口にする「ほんとうのさいわい」は『銀河鉄道の夜』の孤独な少年、ジョバンニの有名な台詞だ。
銀河鉄道に乗り込んだジョバンニは、行く先々で出会うさまざまな人々を通して生きる意味を知る。健治が旅するのは、学校という星だ。

社会生活にまるで馴染めなかった健治だったが、勉強だけはできた。「惑星の軌道みたいに秩序があって美しかった」法の世界に魅了され、大検を経て、晴れて弁護士の職を得る。胸をなでおろしたのもつかの間、「嘘をつく、忖度をするといった社会人に必要なヌタヌタなスキルがまったくな」かった健治は退職を余儀なくされる。
スクールロイヤーとして濱ソラリス高校に派遣された健治は個人情報の漏えいや教育虐待、青少年保護育成条例違反――新旧織り交ぜた問題に向き合うが、時に状況を複雑にさえする。それは法を絶対の根拠として物事を考えるからだ。健治は困難にぶつかり、当事者である生徒の声に耳を傾けることで、ほんとうのさいわいを見つける。

さいわいは健治にも微笑んだ。健治にとってのさいわいは、自己犠牲の精神だった。生徒から感謝の言葉をもらった健治は呆然として、屋上へ走る。そして公転する地球のようにぐるぐる回り、言う。
「あぁ〜、どうやらぼくはうれしいようです。はぁ、人に喜ばれるということは、こんなにもうれしいことなんですね。いま、少しだけ自分が宇宙の一部になってる気がします。あ〜、きれいですね。風が透き通って美味しそうだ」
満ち足りた表情を浮かべる健治はジョバンニそのものだ。ジョバンニは銀河鉄道に乗り合わせた女の子に聞かされたサソリの話に感じ入り、人のために尽くそうと誓う。さんざん虫を食い殺してきたサソリだったが、いざイタチに狙われると必死に逃げた挙句、井戸に落ちて溺れ死ぬ。サソリは絶命する間際にこう呟く。
「どうして私は私の体を黙ってイタチにくれてやらなかったろう(中略)そしたらイタチも一日生き延びたろうに――」
賢治の作品世界を覆っているのはみずからの恵まれた出自が生んだ贖罪の意識であり、そうして達した境地が自己犠牲である。

ポピュリズムがはびこり、分断と排除の気配が色濃く漂う世の中で、いま再び賢治がクローズアップされたのは必然だったのかもしれない。





















