『19番目のカルテ』心で演じた松本潤 最後まで揺らがなかった“ひとを診る”というテーマ

「何もできないからと言って、立ち止まるわけにはいかない」
『19番目のカルテ』(TBS系)最終話では、沈黙する患者に何をできるかが問われた。
徳重(松本潤)の目の前で倒れた赤池(田中泯)は、魚虎総合病院に搬送された。徳重の見立てどおり「バッド・キアリ症候群」の急性悪化と診断される。肝臓からの血液を運ぶ静脈が閉塞・狭窄して血流が疎外され、血圧が亢進する症状を示す難病だ。余命1カ月を告げられた赤池は、「俺はこれから一言もしゃべらない」と口を閉ざした。
問診ができず、事実上治療拒否にあたる状況で、赤池と徳重、そして滝野(小芝風花)は、無言の対峙を続ける。心配する周囲の人々に、徳重が返したのが冒頭の台詞だ。病院を訪れた少女・恵生(新井美羽)のために、滝野はいつものように、病気だけでなく、その人を診る総合診療医の問診をする。
同じ頃、魚虎総合病院は院長選で揺れており、現院長の北野(生瀬勝久)の対抗馬として、外科部長の東郷(池田成志)が病院改革を掲げて出馬した。総合診療科は、北野の肝いりで実現したもので、もし東郷がトップに立てば、採算のとれない小児科とあわせて廃止になることは確実。北野は赤池に思いを吐露する。だが、赤池は答えない。
総合診療医としての徳重にとって、患者が黙ってしまうと手の施しようがない。赤池を観察することで病に冒されていることを見抜いたが、同意なく医療行為を行うことはできない。何より医師である赤池が何を考えているかわからなければ、治療方針自体が立たない。最終話で立ちはだかった赤池は、まるで徳重を試そうとしているようだった。
『19番目のカルテ』は、耳慣れない総合診療医の仕事を徳重や滝野の奮闘を通して描いてきた。その意図するところは二点ある。一つは、病気ではなく、生活全体に目を配り、患者の家族に向き合う「人間を診る」医者であることだ。最終話で、滝野は恵生と向き合う中で、患者本人も気づかなかった意外な診断名を口にするが、これは、患者と家族の話を丹念に聞き、生活全体を見まわすことで至った結論だ。
次に、それぞれ専門の診療科へつなぐハブの役割である。総合診療医が、病名を正確に特定することで、各科の仕事は格段にやりやすくなる。個別の診療科を生かすことで、患者を救う総合診療医は、病院の中で司令塔のような立ち位置といえるかもしれない。
終盤近くで、徳重のために、康二郎(新田真剣佑)や茶屋坂(ファーストサマーウイカ)、大須(岡崎体育)が集まったのは、徳重という人間を認めていたからだが、各科本来のあり方を見直したことで、いざというときに患者のために連携できるようになった成果である。派手な手術シーンのない今作で、主人公である医師の受ける手術がクライマックスになっている点に、本作の独自性が光る。
なぜ、赤池はなぜ治療を拒んだのか? 総合診療科に人生を捧げてきた赤池は、内心では常に自問自答し、仕事に満足することはなく、忸怩たる思いを抱いていた。「途方もない夢」のために戦ってきたが、理想は遠い。これ以上、病を押して生きる意味はあるのか。つきあげる悔恨に苛まれる赤池が、徳重に本心を隠すのは自然な心の動きといえる。
しかし、それ以上に上回ったのは、愛弟子への思いではなかったか。赤池は、身寄りのない自分に対して、徳重はきっと移植を申し出ると考えたはずだ。徳重がどういう人間かを知る赤池は、それだけは絶対に避けたいと思ったのではないか。徳重の思いを受け入れたのは、1人の人間として赤池に向き合い、心を込め、ともに生きることを望む徳重の言葉に納得したからだろう。そこには、生死を超える絆があった。
『19番目のカルテ』は、確定診断のプロセスを、患者と家族、その人が歩んだ足跡に広げた。最終的に、それは「その子の苦しさは、名前をつけなくてもそこにある」という境地に達する。続いていく日常と病気を乗り越え、“病い”とともに歩む一人ひとりの人生に光を当てた。基本的に1話完結の構成で、堀田(津田健次郎)や拓(杉田雷麟)、黒岩(仲里依紗)のその後を取り上げたのは、そのあらわれといえる。
想定外の事態に見舞われた今作だったが、「ひとを診る」という作品の根幹にあるテーマが揺らぐことはなかった。癒しがたい病いと向き合う上で、出演者は心を砕いて、一つのシーン、1行の台詞に思いを込めた。最終話で友情出演した救急医・荒畑役の吉田鋼太郎も含めて、過去作と比べても、格段に“心を使った”作品だったと言える。それによって、視聴者が人生をともに歩む珠玉のドラマとなった。
富士屋カツヒトによる連載漫画『19番目のカルテ 徳重晃の問診』を原作に、坪田文が脚本を手掛けるヒューマン医療エンターテインメント。松本潤がキャリア30年目にして初となる医師役に挑む。
■配信情報
日曜劇場『19番目のカルテ』
TVer、U-NEXT、Netflixにて配信中
出演:松本潤、小芝風花、新田真剣佑、清水尋也、岡崎体育、池谷のぶえ、本多力、松井遥南、ファーストサマーウイカ、津田寛治、池田成志、生瀬勝久、木村佳乃、田中泯
原作:富士屋カツヒト『19番目のカルテ 徳重晃の問診』(ゼノンコミックス/コアミックス)
脚本:坪田文
プロデューサー:岩崎愛奈
企画:益田千愛
協力プロデューサー:相羽めぐみ
演出:青山貴洋、棚澤孝義、泉正英
編成:吉藤芽衣、髙田脩
©︎TBSスパークル/TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/19karte_tbs/
公式X(旧Twitter):@19karte_tbs
公式Instagram:19karte_tbs
公式TikTok:@19karte_tbs





























