押山清高監督が『赤のキヲク』に込めた故郷・福島への思い “自分なりの『ルックバック』”を

2024年に、藤本タツキのマンガを映画化した『ルックバック』の大ヒットで旋風を巻き起こした押山清高監督。そんな彼が次回作に選んだのは、故郷・福島県の総合情報誌「ふくしままっぷ」のブランドムービー『赤のキヲク』だった。
本作は、福島県の今と魅力を詰め込んだ総合情報誌「ふくしままっぷ」を、より多くの人に届けるために発足した「ふくしままっぷ友の会」の特別企画として制作された短編作品。
約3分半の時間で、東京でグラフィックデザインの仕事をしている福島出身の女性主人公が、物語の鍵となる「赤べこ」を通じて故郷との関わりを見つめ直し、地元をアピールする「あかべこまっぷ」を作成するという物語が、エモーショナルなアニメーション映像とともに展開する。
本作の制作にあたり押山監督はどんなことを考えたのか、話を聞いた。
福島県からの依頼だから引き受けた
――押山監督がこのお仕事を受けられた理由は、やはり故郷の福島県の依頼だからだったのでしょうか?
押山清高(以下、押山):そうですね。『ルックバック』以降、しばらくアニメーションの仕事を休もうと思っていたんですけど、断りづらい依頼が来ちゃったなって(笑)。広告系の仕事を積極的に受けたいとは思っていなかったので、どうしようかすごく悩みましたが、このブランドムービーは広告っぽい感じじゃなくてもOKということだったので、やってもいいかなと思いました。
――『ルックバック』の制作はそれほど大変だったのですね。
押山:制作も大変でしたが、その後の長引くプロモーションの最中での依頼でした。いつもならあのタイミングで仕事を受けていないです。もう一つ、依頼を受けた理由を挙げるとすれば、『ルックバック』は藤本タツキ先生の自伝的な要素がある作品で、ダイレクトに自分を投影できる作品だと言ってきましたけど、やはり自分の原作ではありませんから、あの作品でできなかったこともあったんです。福島を舞台にできるなら、“自分なりの『ルックバック』”じゃないですけど、それに近い表現ができるかもしれないと思ったんです。
――確かに『赤のキヲク』は、『ルックバック』と物語は異なりますが、精神的なつながりを感じます。
押山:映像の構造としては全然別ものなんですけど、共通点もありますね。どちらの主人公もペンを持っているとか。似通ったものにしようと思ったわけではないですが、似てしまいました。
――本作の『赤のキヲク』というタイトルの由来はなんでしょうか?
押山:「赤」は赤べこの色でもありますが、ここでは自分の故郷を象徴しています。赤は、人間が最初に認識する色と言われていて、記憶や原体験に紐づく色だと思うんです。私の場合は福島が故郷ですが、観る人それぞれの故郷がありますから、みんなが原体験や故郷を思い出せる言葉として「赤」を使いました。
地震と疫病から人を守る“赤べこ”伝説
――押山監督は「ふくしままっぷ」の存在を、本作の仕事を受ける前からご存知だったのですか?
押山:失礼ながらまったく知りませんでした。ただ、以前からデザインを手がけている寄藤文平さんのイラストは好きだったんです。「ふくしままっぷ」のイラストは、線画の素晴らしさが印象的で、細かく見ていくと、本当にこれは大変な作業だなと思います。自分の出身地の本宮市はなんて書いているのかなと気になって探してみると、「福島県のへそ」と書かれていて、特徴を挙げるのに苦慮したのかなと思えたりして面白くて(笑)。
――主人公をグラフィックデザインの仕事をしている女性に決めた理由を教えてください。
押山:作中の「あかべこまっぷ」を作ったプロジェクトメンバーの1人にしたかったので、自分との共通点を見いだせる存在として考えました。本編の中で「ふくしままっぷ」を出してほしいという条件はあったので、物語の中で自然に見せるにはどうすればいいかを考えた結果です。
――あの「あかべこまっぷ」が世代を超えて語り継がれていくようなイメージの物語になっていますね。
押山:はい。赤べこ伝説はもともと福島で語り継がれているものなので、それが新しい形となって次の世代に受け継がれていくという形にすれば、福島のPRにもなると思いました。
――赤べこの伝説は、地震の被害から赤毛の牛が地域の再建を助けたというものですよね。
押山:そうですね。あとは疫病からも守ってくれるなど、守り神みたいな感じで言われています。
――地震と疫病と聞くと、やはり東日本大震災とコロナを思い出します。そういう昨今の災害とつなげようという想いもあって、作中で赤べこを取り上げているのですか?
押山:そうですね。でもわかる人にはわかるぐらいの温度感でいこうと思いました。
――怪獣が海から上陸してきて、赤べこをモチーフにしたベコ太郎が戦うシーンがあります。震災のメタファーと言えるシーンですね。
押山:はい。円谷特撮のように表現しました。寄藤さんもどこかでベコ太郎を出したそうにしていたので、どうせなら動く姿が見たいんじゃないかと思って、あのシーンを作りました。寄藤さんの絵はシンプルなので、動かしやすいんです。
――本作の制作を経て、故郷の福島に対しての想いに変化はありましたか?
押山:この作品で福島に対して、特別な想いが芽生えたということはなく、やはり東日本大震災が大きいですね。『赤のキヲク』以前にも『フリップフラッパーズ』という作品で福島を舞台にしています。ただ、地元に対して、自分に何ができるのかと改めて考えるきっかけにはなりました。とはいえ、自分にはアニメを作るぐらいしか世の中に役立てることはないと思いますが。アニメは国境を越えやすいと思うので、『赤のキヲク』が海外の方にも届いて、福島の魅力を知ってもらえたらいいなと思っています。




























