『鬼滅の刃 無限城編』が村田ら“一般隊士”のシーンを追加した意味 続編へのとある布石に

『無限城編』が一般隊士の場面を追加した意味

 『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』は原作に忠実なストーリーラインの中で、圧巻のクオリティの映像美に加えて、アニメオリジナルの描写が見事に上乗せされており、原作を120%アニメ化した作品となっている。そんなオリジナルのシーンの中でも、特に大勢の原作ファンに衝撃を与えたシーンといえば、やはり村田による「水の呼吸 弐ノ型 水車」であろう。もちろん見どころはそれぞれにあれどである。

 そもそも、今作では連載当時の『鬼滅の刃』を読んでいた人ほど入口の段階で、確実にとある衝撃を受けるはずなのだ。筆者もその中の1人である。つまり何が言いたいのかと言うと、「無限城ってこんなすごかったっけ」ということ。「鳴女ってこんなすげえの」ということなのだ。それも当然なのである。今作の冒頭でAimerによる主題歌「太陽が昇らない世界」が流れるとともに、無限城に落下していく炭治郎や柱たちの姿。実際に一緒に落下していくかのような途方もない没入感、無限城の果てしない広がりと視覚的なアトラクション性、無限城の内部を蠢くモブの鬼たち、炭治郎が無惨に叫ぶ声、遠くの彼方に消え入る。完璧なタイミングで主題歌が挿入されながら、一曲丸ごとを含めて演出され尽くした落下のシーンによるドラマチック。大袈裟ではなく15分は落下していた気がするし、大袈裟に言えば体感1時間半である。もちろん、その間に1秒も退屈な時間はない。このシークエンスだけでも、みなさんご存知のあのテーマパークやこのテーマパークの落ちる系のアトラクションに匹敵する臨場感と満足度の高さである。

 そして、この劇場版における無限城の中の落下を描いた壮大な一連のシーンは、原作においてはというと、炭治郎の落下から周りの状況判断と床に叩きつけられて死んでしまうかもという危機、そこを義勇に救われるところまでが第140話の冒頭2ページ8コマ分で描かれる場面なのだ。特に、無限城の怒涛の広がりや同時に落下して行くほかの柱たちの姿や彼らを待ち受ける無数のモブ鬼の姿などは原作にはなかった完全なるアニメオリジナルのものだと言える。ただ、こういった場面から見ても、ここで1つ改めて明確にしておきたいここからの筆者のスタンスとしては、それらの原作に描かれていないアニメオリジナルのシーンはいわゆる“アニオリ”といってしまうよりも、週刊連載の原作では泣く泣く省かれたシーンやカットが、3DCGの描画だけでも本来は3年6カ月かかると言われていた無限城という舞台に、そんな最新技術と最新鋭の製作会社と約200人の原画マンをはじめとする大勢のスタッフが全集中で力を合わせた劇場版の今作において、この度ついに追加されたものという方がもはや自然であるということだ。

 それは落下のシーンに始まり、アニメだからこそ魅せられる戦闘シーンの流麗さの中で、原作では使用していない技にも多数見られた。例えば、胡蝶しのぶの「虻咬ノ舞 切裂の誘い」、うごうごと脈打つ無限城の中での炭治郎の何気ない「水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱」、モブの鬼を一掃する善逸の「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃」、そして村田の「水の呼吸 弐ノ型 水車」である。

 今作ではこのほかにも、原作で出番はなかったが、その多くが名前の判明していない鬼殺隊士が多数登場する。そして最上級の敬意を込めた上で便宜上、彼らをここでは“一般隊士”と呼ばせていただく。

 彼ら“一般隊士”が無限城の中でモブ鬼と戦闘を繰り広げ、「柱の消耗を最小限に抑えろ」「岩柱、ここは任せてください」「柱稽古の成果を見せるんだ」と周りの鬼を食い止め奮闘しながら岩柱、霞柱、恋柱、蛇柱を先に進めるシーンなども今作での追加カットであり、さらに、そういったセリフのあった“一般隊士”たちの何名かは見事、エンドロールに名前がクレジットされている。今作では村田、島本、竹内、野口がそうである。

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 思えば、こういった原作以上の“一般隊士”へのフォーカスは今作の一つ前、アニメシリーズ「柱稽古編」でも顕著に行われていた。例えば、時透無一郎と“一般隊士”たちによる紙ヒコーキ飛ばし対決のシーンは原作には一切無い。折角なので同様に比較しておくと、そもそも「柱稽古」の宇髄天元、霞柱、恋柱、蛇柱のもとでの修行パートは、原作では第132話の1話のうちに炭治郎のナレーションとダイジェストで通過していく。

 一方、岩柱の修行パートでは、同じ釜の飯を食う仲間たちとして、アニメでは名前が省かれたものの、原作では名前だけがさらっと記載はされていた隊士たち、吉岡、長倉、野口、島本といったメンバーもいるにはいるし、アニメシリーズ「柱稽古編」における紙ヒコーキの4話、岩柱の6話でも、かねてより名前の判明している村田以外の“一般隊士”の名前がエンドロールにクレジットされること自体はなかった。故に、今作でそんな彼らの名前がついにエンドロールに記載されているのも“一般隊士”への改めてのリスペクトがそこにあるのだと言える。

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