『鬼滅の刃 無限城編』が村田ら“一般隊士”のシーンを追加した意味 続編へのとある布石に

『無限城編』が一般隊士の場面を追加した意味

 そんな劇場版に話を戻すと、そういった新たなセリフを伴う追加カット以外では、無限城の決戦に備えて待機していた村田をはじめとした“一般隊士”たちの姿も描かれていたし、胡蝶しのぶの怒りについての回想カットで出てきた、カナヲ以外の殺されてしまった継子達の顔も“一般隊士”へのリスペクトの一つだと言えるだろう。こちらも原作では、詳細なビジュアルや表情までは描かれていなかった。もっと細かく言うのならば、善逸と獪岳が対峙するシーンにて、産屋敷輝利哉の「“丙”の隊士が上弦とサシではまずい。応援を向かわせろ」といった趣旨のセリフがあるのだが、ここでも原作では「我妻隊士が上弦の陸と鉢合わせました」と言う演出までに留まっているのだ。ここで「丙の隊士」というセリフを入れることによって、そもそもある設定としての隊士の階級までへの言及を行う上で、この無限城での最終決戦は鬼殺隊全員で団体戦を行なっているという立ち位置に無限城編全体の視点をあえて広げているともいえるだろう。

 炭治郎や柱たちと同様に無限城へと落下していたはずの彼ら、そんな“一般隊士”の無限城でのモブ鬼たちとの立ち回り、それは決して映画の見せ場の一要素として新たに描かれたのではなく、もともと原作では描かれていなかっただけで、確実にそこに存在したシーンたちなのだ。そして、ここまで原作においてはあえて描かずとも当たり前の存在となっていた彼らであるが、今作が見せたこのような“一般隊士”へのリスペクトは、この先の続編に向けてのとある布石なのだとも言えるだろう。今作で映画として描かれた猗窩座戦の終結までは、特に原作においては前提の背景となっていた“一般隊士”たちも、しっかりと今後の展開の中では無限城の中にいるたくさんの“一般隊士”としてやっと姿を伴って描かれることとなるからだ。彼らもずっとそこにいて戦っているのだ。そんな彼らの頑張り、自己犠牲の精神への深掘り、“一般隊士”の大活躍は、今作のためではなくアニメを作る上でずっと前から計画されていた視点でもあるといえるのだ。それは隊士だけでなく、裏方に回る“隠”たちも同様である。今作での“隠”たちも無現城解析に立ち会い、産屋敷家と共に一丸となって力を合わせていたシーンは原作では描かれていなかった部分だ。また、こういった“隠”たちへのリスペクトという点では、「柱稽古編」でも稽古の途中で戦いを諦めて裏方に回ることを選ぶ人々のシーンがアニメではより深く丁寧に描かれている。

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生身を削る思いで戦ったとしても、全て無駄なんだよ杏寿郎。お前が俺に喰らわせた素晴らしい斬撃も、既に完治してしまった。だがお前はど…

 そんな裏方に回り鬼殺隊をサポートすることを選択をした人間もいる中で、“一般隊士”の彼らもやはりそれぞれが、鬼に家族や大切な人を殺された復讐のためや、この世界を、人々の生活を守るために志を立て、様々な形はあれど、あの過酷な「最終選別」を突破し、「柱稽古」を乗り越え、圧倒的に数も多い上に「下弦程度の力を持たされている」モブの鬼たちへ勇猛果敢に立ち向かい、この決戦では最初の段階で、あの炭治郎でも危ぶまれた、無限城の落下の衝撃にも耐えてきたきたわけなのである。

 この最終章に向けてアニメシリーズの段階からも、原作よりもさらにしっかりと重心を置いて“一般隊士”にもフォーカスを当てていることによって、我々の目に見える彼ら、また、これでもまだ目に見えていない彼らや、これまで鬼殺隊が1000年間の思いを繋いできた過去の人々の存在を一層感じながら、彼らにより深く思いを馳せるきっかけとなる。劇中での鱗滝のセリフにもあったように『鬼滅の刃』という、永遠の命を求める鬼に対して人は心を受け継いで戦って行くという「人の想いを繋いでいく物語」においてはそれがいかに大切なことか。そういった原作への深い愛と理解度から全ての“オリジナル”シーンは生まれていると言えるだろう。

 つまり、誠に僭越ながら、主にまだ原作を読んでいない方に向けて、または原作は読んでいるが劇場版を観ていない方に向けても、何度でも言わせていただくのだが、この後の無限城編でも彼ら“一般隊士”がどんな思いでこの戦いに臨んでいるかがちゃんと描かれるということ、またそれがいかに我々の胸を打つかということだけは伝えておきたい。

 そして、語弊を恐れずに言えば、アニメに比べればこういった隊士たちの部分にあまり重点が置かれていなかった原作ですらそうなのだから、劇場版で、このクオリティの映画の中でそれを見られることが確定していると思えば、今からすでに目頭が熱くなっている。『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』三部作のこれからさらに加熱する死闘に次ぐ死闘。もちろん上弦VS柱ほど出番はないかもしれないが、同じく命をかけて戦っているそんな“一般隊士”たちの、今、判明している彼らの名前だけでも覚えて帰っていただければ幸いだ。

■公開情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』
全国公開中
キャスト:花江夏樹(竈門炭治郎役)、鬼頭明里(竈門禰󠄀豆子役)、下野紘(我妻善逸役)、松岡禎丞(嘴平伊之助役)、上田麗奈(栗花落カナヲ役)、岡本信彦(不死川玄弥役)、櫻井孝宏(冨岡義勇役)、小西克幸(宇髄天元役)、河西健吾(時透無一郎役)、早見沙織(胡蝶しのぶ役)、花澤香菜(甘露寺蜜璃役)、鈴村健一(伊黒小芭内役)、関智一(不死川実弥役)、杉田智和(悲鳴嶼行冥役)、石田彰(猗窩座役)
原作:吾峠呼世晴(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
美術監督:矢中勝、樺澤侑里
美術監修:衛藤功二
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
主題歌:Aimer「太陽が昇らない世界」(SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.)・LiSA「残酷な夜に輝け」 (SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.)
総監督:近藤光
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝・アニプレックス
©︎吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation.
公式サイト:https://kimetsu.com/anime/mugenjyohen_movie/
公式X(旧Twitter):@kimetsu_off

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