『鬼滅の刃 無限城編』で童磨が放つ抗えない魅力 宮野真守が完成させた“イミテーション”

『鬼滅の刃』童磨を“完成”させた宮野真守

“モノマネ”を声で体現した宮野真守

 そんな童磨は、やはり宮野真守の演技と声色がなければ完成していなかったように思う。誰かの感情やリアクションをモノマネしているだけの言動。「いろいろ言っているけど、そんなこと毛ほども思ってなさそう」なのに赤子をあやすような柔らかな声色と物腰、そして母音を丸め、高域で息を含んで語尾をふっと抜く話し方の“異物感”が観客の神経を逆撫でするのだ。

 しのぶ役の早見沙織は、宮野との“掛け合い収録”によって感情の昂りが加速したと語る。優しい温度で迫る声に対し、しのぶ側の抑制された呼吸が震え、やがて決壊する。宮野による童磨の“空虚な慈愛”を真正面から受けることで、それに呼応してしのぶの言葉が鋭くなっていったとのことだ。劇場パンフレットには「アフレコ現場の宮野真守さんは童磨そっくり、休憩時間でも童磨の雰囲気を身にまとったまま会話をされる」とも言及されていて、童磨そっくりと言わしめた宮野の役への没入感が伺える。

 キャスティングが「遊郭編」最終話の時点で公にされて以降、宮野はインタビューや自身の番組で継続的に役への手応えを語ってきた。直近でも自らのラジオ『宮野真守のRADIO SMILE』(文化放送)にて、童磨への強い愛着について以下のように語っていた。

「俺は好きだよ、童磨のことが。童磨を考えれば考えるほど童磨が一番好きだな。理解できないとか不愉快とか言われるけど俺はちょっと童磨のことを考えすぎているからめちゃめちゃ理解できるんだよな。あいつの行動原理というか、何を思って言葉を発しているのかは。とことんまで僕は追求して演じているのですごく自然でしたね」

 第二章で描かれる戦いの続きを考えると、本作での童磨は観客の嫌悪をそのままカタルシスへと転化する“憎悪の触媒”でもある。宮野はラジオでも自身の演じたキャラクターが観客から「不愉快」や「生理的に無理」と言われている状況に対して言及していたが、むしろそう思わせることによって童磨は完成され、作品の成功に繋がっているのだ。本作のヒットは間違いなく作画、脚本、そして声優陣の演技が観客の感情を動かしたからこそのもの。その中でも、猗窩座のエモーショナルな物語だけでなく、童磨の“無感情さ”もここまで魅力的に映した……そんな丁寧なキャラクター表現が本作をヒットに導く最大の推進力なのではないだろうか。

■公開情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』
全国公開中
キャスト:花江夏樹(竈門炭治郎役)、鬼頭明里(竈門禰󠄀豆子役)、下野紘(我妻善逸役)、松岡禎丞(嘴平伊之助役)、上田麗奈(栗花落カナヲ役)、岡本信彦(不死川玄弥役)、櫻井孝宏(冨岡義勇役)、小西克幸(宇髄天元役)、河西健吾(時透無一郎役)、早見沙織(胡蝶しのぶ役)、花澤香菜(甘露寺蜜璃役)、鈴村健一(伊黒小芭内役)、関智一(不死川実弥役)、杉田智和(悲鳴嶼行冥役)、石田彰(猗窩座役)
原作:吾峠呼世晴(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
美術監督:矢中勝、樺澤侑里
美術監修:衛藤功二
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
主題歌:Aimer「太陽が昇らない世界」(SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.)・LiSA「残酷な夜に輝け」 (SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.)
総監督:近藤光
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝・アニプレックス
©︎吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation.
公式サイト:https://kimetsu.com/anime/mugenjyohen_movie/
公式X(旧Twitter):@kimetsu_off

 

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