『ちはやふる-めぐり-』は“青春敗者”の物語 プロデューサーが映画版との違いを明かす

『ちはやふる-めぐり-』P語る前作との違い

 2018年の映画『ちはやふる-結び-』の10年後の世界が、オリジナルドラマとして描かれる。制作発表の時点から胸を踊らせた映画ファン、原作ファンは大勢いるだろう。

 一方で、オリジナルドラマ制作に至った背景に疑問を持ったファンもいるかもしれない。なぜ今『ちはやふる』なのか、なぜ完全オリジナルドラマなのか。その企画の裏側には、映画キャスト、スタッフから『ちはやふる』シリーズへの大きな愛と敬意が込められていた。

 元々『ちはやふる』の大ファンで、『ちはやふる-めぐり-』(日本テレビ系)のメインプロデューサーに抜擢された榊原真由子プロデューサーに、企画の裏側や撮影の様子についてたっぷりと語ってもらった。

オリジナルドラマとして再始動した『ちはやふる』

——完結版となる映画『ちはやふる-結び-』の公開から7年経ち、今回オリジナルドラマとして企画が立ち上がった経緯を教えてください。

榊原真由子(以下、榊原):3部作の映画が“青春映画の金字塔”として当時から高く評価されていた中、キャストさんやスタッフさんも「10年後また集まれたらいいね」という話をしていたそうで、その記憶が映画のメインプロデューサーである北島直明の中にずっとあったそうです。とはいえ、映画は綺麗な形で完結しているし、続編は難しい。でも、コロナ禍を経て世の中が変わっていく中で、今の10代に『ちはやふる』を届けたい。その強い思いがあって、企画が進んでいきました。

——リメイクという選択もできた中で、オリジナルに挑戦したのはなぜですか?

榊原:今の時代に即した『ちはやふる』を届けたかったのが大きな理由です。また、原作者の末次由紀先生も3部作の映画をすごく気に入っていただいていましたし、原作を元にした『ちはやふる』の実写化はあの形がベストでしょうから、リメイクは考えられないというのもありました。現在、『ちはやふる plus きみがため』が連載中ですが、内容が原作の『ちはやふる』のすぐ後の話ということもあって、映画のときと同じキャストに演じてもらうことが難しいため、こちらの実写化というのも考えられませんでした。別のキャストに演じてもらうのであれば、完全にオリジナルで映画から続く世界を描こうということになったんです。

——末次先生の反応はいかがでしたか?

榊原:最初は驚いていらっしゃいましたが、10年後の千早たちに会えるなら会いたいと言ってくださいました。末次先生にとって我が子のように大切な原作をお預かりするので、なぜ今『ちはやふる』をやりたいのか、ドラマで作りたいのかということを話し合いながら、最終的にはお任せしますと言っていただきました。プロット制作やキャラクター設定など、根幹の部分にたくさんご助言をいただき、『ちはやふる』の世界観が引き継がれるように作っていきました。

——競技かるたの関係者にもたくさんご協力いただいたそうですね。どのような取材を行ったのでしょうか?

榊原:末次先生から制作のご許可を頂いた2024年の頭から、1年以上取材を続けてきました。全国高等学校選手権大会や都大会も見学し、高校のかるた部にもいくつか取材に伺いました。特に、2024年の優勝校である関東第一高校には何度も伺いましたね。地域のかるた会に伺って、そこで出会った高校生に話を聞いたり、専任読手の方に取材も行っています。取材でも、かるたの試合シーンのエキストラにきてくださった方たちも「『ちはやふる』のためなら」と、全面的に協力してくださって本当にありがたかったです。かるた界への『ちはやふる』の貢献度と皆さんの作品への愛を感じるとともに、身が引き締まりました。

3000人規模のオーディション秘話

——3000人規模のオーディションを経てキャスティングされたそうですが、どんなオーディションが実施されたのでしょうか?

榊原:台本を渡して演じてもらうという部分では従来のものと変わりはないんですが、対応力を見るために、同じシーンをシリアスやコメディなど雰囲気を変えて何度か演じてもらいました。現場で自分が準備してきたものと監督のイメージが異なっていたときに、自分のイメージを捨てて対応できるかが大切になってくるので、そういった部分を見る狙いです。競技かるたは意外と運動神経が重要になので、スポーツ経験を聞いたり、身体の動かし方をお芝居のなかで見せてもらったりしていました。

——どういったポイントで、各高校のキャストを選んだのでしょうか?

榊原:それぞれの学校に異なる特色があるのを意識していました。分かりやすいところで言えば、北央学園は男子校ならではの男の子らしさや、見るからにキャラクターが濃い感じをイメージしています。瑞沢高校は現在強豪校になっているけど、千早たちがいたときよりも少しバラバラなところがある設定なので、一人ひとりの個性が強く見えるように選びました。梅園高校には“青春敗者”という設定があって、これまで居場所も自信もなく、足元がおぼつかないイメージで、いい意味で“色がない”子たちをキャスティングしています。総勢16名のかるた部員たちにあわせて、かるたの取り方にも特色を出しています。キャストの皆さんは2024年の9月からかるたの基礎とそれぞれのキャラクターのかるたの取り方をみっちり練習してくださったので、ぜひ注目してほしいです。

——撮影現場の様子はいかがでしたか?

榊原:皆さん本当に仲が良くて、それぞれの控室があるのに16人で集まって同じ部屋で休憩したり、ご飯を食べたりしていました。学校の垣根を超えて、みんな楽しそうにしていましたね。撮影はすべて終えているのですが、クランクアップのときには、皆さん口々に「寂しい、寂しい」と言っていて、そんなやりとりを大江奏役の上白石萌音さんが見て、自分たちの頃を思い出すとおっしゃっていたのが印象的でした。映画版の瑞沢高校メンバーの7人も再会を喜んでいて、「一瞬であの頃に戻ったようだ」と、仲良く思い出話をされていました。プロデューサーとしてスケジュール調整は大変でしたが、7人の再会を実現できてよかったです。

——キャストと同じく、監督や脚本家も新進気鋭のメンバーが揃っています。どんな基準で選んでいったのでしょうか?

榊原:キャストと同じく、スタッフも若い世代に引き継ぎたいということは初めから小泉さん(映画『ちはやふる』監督・脚本)や北島プロデューサーが言っていたことでした。今作でメイン監督を務める藤田直哉さんはドラマ未経験ですが、自主制作映画で北島プロデューサーが注目していた監督でした。特に、2024年の3月に公開された『瞼の転校生』は海外でも賞を獲っていて、中学生の葛藤や悩みを瑞々しく切り取った映像が素晴らしかったので、映画とは違った『ちはやふる』の空気を出せるのではと思い、お願いしました。脚本家は4名おりまして、小坂志宝さん、本田大介さん、松本千晶さんは小泉さんが主催するライターズルーム「モノガタリラボ」のメンバー、金子鈴幸さんは『瞼の転校生』などで藤田監督と長年ご一緒している脚本家です。原作が全50巻、映画が3部作あり、競技かるたのルールや和歌についても学ぶ必要があり、取材も多く難易度の高い作品だったので、ライターズルームシステムを取り、複数人でプロットを元に展開を練って脚本を作っていきました。最終的な世界観の統一は、ショーランナー兼脚本家として小泉さんが行っています。

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