最後まで引き金を引かないでいるために Netflix『トリガー』が突きつける“銃”の存在意義

『トリガー』が突きつける“銃”の存在意義

 タイトルの「トリガー(trigger)」は、「引き金」、「きっかけ」という意味だ。殺害の衝動を抑えようとセラピーに通うジョンテは、医師より「人は皆心の中に引き金(トリガー)を一つずつ持っている」と説かれる。このセリフをテーマとして貫き、銃社会の恐怖をディストピアとして見せた本作だが、銃がもっと広義の暴力のメタファーだとは読み取れないだろうか。たとえば個々人が社会において抱える不満を、かなり極端な言葉を使う有名人や差別主義の政治家があおり立てることで、その鬱積した感情が政治や制度、権力といった正当な方に向かうのではなく、マイノリティに対する差別言説やヘイトクライムという暴力として広がっていく。こうした煽動は、ある種の“トリガー”と同じではないか。

 幼い頃にトラウマを負ったイ・ドは、その後軍の狙撃兵となり、紛争地帯で再び銃を持つ恐怖と悲劇を味わった。銃の扱いを熟知し、悪を憎むイ・ドだが、ドラマの結末は一般的な復讐譚と異なるものとなった。演じたキム・ナムギルは、ドラマに痛快なカタルシスがないという一部の批判について次のように語っている。

「ある部分では“きっちり制裁してほしい。いつまでいい人ぶっているんだ”という声もありました。でも過去の過ちを繰り返さないというのがイ・ドの哲学なんです。(中略)劇中の登場人物たちは、物語や正当性を持った人物なんですが、結局は“人を殺す状況”を作り出したわけです。そんなとき“制裁がドラマ的に許容されていたら痛快だったのに”という感想が出るのも理解しています。でもイ・ドというキャラクターや作品全体が持っているメッセージがあったので、僕自身かなり抑制を効かせるようにしました。(中略)罪を“同じ罪で返す”という考え方は、そろそろ変わらないといけないのではないかと」(※1)

 理不尽なことをされ、頭に来て相手を殴りたいと思ったことが一度もないという人は少なくない。多くの人が心の中にある暴力の衝動、悪意や差別に満ちた眼差しを持ち合わせている。それでも「暴力は絶対にダメだ」は、感情との矛盾でも、いい人ぶったきれいごとでもない。むしろ、矛盾だ、きれいごとだと冷笑せずに訴え続けることだけが、この世界の不寛容に立ち向かう術ではないか。かつてムン・ベクは、ある平和な村に一挺の銃を置いたことで、村人たちを豹変させてしてしまった。その後も無数の銃の引き金が引かれた。しかし、そんな中でも最後まで撃たれることのなかった銃がある。その一挺を忘れることができない。

参照
※ https://m.entertain.naver.com/home/article/477/0000561829

■配信情報
『トリガー』
Netflixにて配信中
出演:キム・ナムギル、キム・ヨングァン
監督:クォン・オスン、キム・ジェフン
脚本:クォン・オスン
Son Ik-chung/Netflix© 2025 Netflix, Inc.

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