ショートドラマ市場が急速に拡大中 経営者たちが語り合う「BUMP」誕生以降の実態

日本でショートドラマプラットフォームが拡大するためには?

――国内ショートドラマのプラットフォーム拡大にあたっての“戦略”をひと言お願いします。
蜂谷:僕は「日本向けの作品ラインナップ」が重要だと思います。日本のプレイヤーがたとえば中国だったり、グローバルの大手プラットフォームと戦っていく中で、どこに勝機があるのかを考えたとき、やっぱり日本のユーザーに最適化されたコンテンツを作れるかどうかがカギになると思っています。日本市場は本当に特殊で、とくにコンテンツ領域は“文化事業”に近い。だからこそ、日本人が好む文脈や感性を熟知している日本のチームには「地の利」があると思います。なので、日本人のための、日本人の感性に刺さるラインナップをしっかり揃えることがショートドラマ市場で国内勢が確実に勝っていくためのベースになるのではないかと考えています。
中川:大きく2つあると思います。まず一つ目が、日本発の大ヒット作品を配信すること。これは結局みなさんがおっしゃることとも重なると思うんですが、よりたくさんの作品を作り、よりたくさんの投資が集まり、ユーザーも増えていく中長期的なサイクルを作るためには、センターピンとなる大ヒット作品を作ることが必要不可欠です。たとえばWebtoonの例で言えば、『俺だけレベルアップな件』の大ヒットがなければあの市場はここまで大きくなっていませんでした。ショートドラマでも同様に、「こんなに儲かる」「こんなにみんなが知ってる」という象徴的なタイトルが必要だと思っています。そしてもう一つが「マネタイズの拡張」。とくに日本市場では、“話の課金型”以外の収益モデルを掛け合わせられることも重要だと考えています。最近注目しているのが、電子書籍プラットフォーム「Renta!」の取り組みです。「Renta!」はショート動画専用の「カテゴリタブ」で動画を配信しつつ、そこから集めたユーザーにマンガを購入してもらうモデルを取っていて、動画がきっかけで他ジャンルの収益にもつながるという好例だと思います。このように、ショートドラマ単体でのマネタイズだけでなく、その先にある多面的な収益モデルと結びつけることで、コンテンツの価値をより高めていくという方向性は、今後かなり重要になってくるのではないでしょうか。
折茂:まず“日本発でセンターピンになるような大ヒット”を生み出すことが最大のKGI(重要目標指標)ですよね。そのために必要なものは、やっぱり作品数の“量”なのではないかと。もちろん今も頑張ってはいるし、作品もたくさん出てきてはいると思うんですが、たとえば中国は嘘みたいな制作体制で、嘘みたいな規模で、人も作品もめちゃくちゃ流通しています。それに比べると、まだまだ僕らは「足りてない」という感覚がすごくある。だからこそ、まずはとにかく“数”をしっかり出していくことが、最初のシンプルな答えなんじゃないかなと思っています。
澤村:今のショートドラマの市場って「数字が大きい」という意味でめちゃくちゃ注目されているとは思うんですが、正直すごく一過性になりうる状況だなと感じています。今はとにかく広告出稿額が大きいから一時的に収益が上がっているだけで、少なくとも日本においてはいわばユニットエコノミクスが成立していない状態なんですよ。だから今の市場の大きさはあまり本質的な意味がないんじゃないかと思っていて。大事なのは、単体の作品で終わらせないこと。「この作品、面白かったな」で終わるのではなく、その1本がきっかけで“ショートドラマ自体が面白い”というジャンル体験として広がっていくこと。つまり、「ショートドラマを観ることが楽しい」「日常的にショートドラマを観る人が増える」という“視聴習慣の獲得”こそが一番重要な戦略だと思っています。
折茂:それで言うと、中国はホントすごいですよね。電車とかでみんなショートドラマ観てますもんね。びっくりしました。普通にWebトゥーン感覚でショートドラマを日常的に消費しているというか。ああいうのを見てしまうと、日本はまだ「購入体験」とかも含めて、ちょっと薄いなって感じますね。
新サービスが文化として浸透するための条件

蜂谷: BUMPさんが縦にこだわっていないのはすごく面白いなと感じました。僕自身はまだこの分野を始めたばかりで、「ショートドラマって縦型でしか成立しないんじゃないか」と思っていたんですが、BUMPさんは横型でもきちんと成立させている。横型が成立するなら、地上波とのサイマル放送などを通じて、一気に作品の認知チャネルを広げられる可能性がありますよね。
澤村:正直横でも縦でも変わらないだろうと思っていたから(笑)。ただ横も縦もあるほうがプロバイダーの幅が広がるなと思ったんですよ。やはり横があることで喜ばれるクリエイターさんは多いので。アメリカとか韓国に行ったときに、横があるからやりたいと思ったみたいなことは結構言われます。
中川:なんならBUMPは最初、ほぼ横型でしたよね。だから僕らも参入したときはかなり悩みました。僕たちが縦に絞った理由は大きく3つあって、1つ目は、コンテンツプロバイダーとして売り先を増やすため。中国系のプラットフォームは基本的に縦型でしか買ってくれないので、売り先を広げるには縦である必要があった。2つ目は「これは従来のドラマとは違うんだ」と作り手に意識してもらうため。これが結構重要で、「ショートドラマ」という名前は結構功罪あると思っているんですが(笑)、「縦です」って最初に言うことで「今までのドラマとはちょっと違うんだな」というプロデュースに持っていきたかったんです。3つ目は、制作コストの話。これは理論上「縦型のほうが美術や背景のコストを抑えやすい」という話がありますよね。制作コストを下げれば、それだけチャレンジできる本数が増やせる。結果として、質の高い作品が生まれやすくなると思った。だから縦で勝負したい、という判断でした。
折茂:名前、今から変えますか? 「バーティカル〜〜」みたいな(笑)。
澤村:アメリカとかに行くと、ショートドラマ=バーティカルシリーズ(縦型シリーズ)という認識が完全に定着しています。うちの作品が紹介されるときも、現地のプロデューサーの人が「バーティカルシリーズって知ってる?」っていうところから話が始まるんです。だからこっちは「それそれ、それやってるよ。でも今回はホリゾンタル(横型)なんだけどね」と説明するんだけど、アメリカではもう完全に「ショート=バーティカル」と認識されているなと感じます。
中川:たしかにそうですね。そもそも選択肢がないですからね。BUMPくらいじゃないですか、縦型も横型もあるの。
蜂谷:僕らは「ショートドラマは縦型」という縛りがあるから、ある意味説明が簡単なんですよ。でもBUMPさんは今、横型でもショートドラマとして成立させているじゃないですか。その手応えはすごいなと思っていますが、一方で、横型となると「それってテレビドラマと何が違うの?」と思われがちじゃないですか。澤村さんから見て、映画とかテレビドラマと、今BUMPさんがやってる“横型ショートドラマ”の本質的な違いは何だと思いますか?
澤村:やっぱりテレビドラマは最初の1話を観るハードルはものすごく高いと思っているんです。テレビドラマって、「感動できるかわからないものに1時間つきあう」必要があるじゃないですか。それって多くの視聴者にとって結構キツくて。でもショートドラマは、最初の1分半とか3分だけで、自分に合うかどうかが感覚的にわかる。もちろん「1分だったら投資してもいいかな」なんて意識的に思ってるわけじゃないけど、たぶん潜在的にそういう感覚があるんだと思います。つまり入口がめちゃくちゃ手軽になった。でもその手軽さから自然と没入して、結果的には長く観てもらえる、というのが今のショートドラマの構造だと思ってます。
蜂谷:いわば“バイトサイズ・フックド・ドラマ”みたいな。
澤村:ああ確かに(笑)。僕も正直「縦型ショートドラマ」って言葉はあんまり好きじゃないんですよ。縦かどうかって、あんまり本質じゃないと思っていて。どっちかというと、“短いものが従量課金で販売される”という販売モデルの革命だと思っていたんです。
中川:ビジネスモデル上は完全にそうですね。そんな中でサブスクをがっつりやってますもんね。売り上げの半分はサブスクらしいですね。
折茂:まとめ買いに近い感覚ですよね。
中川:たしかに。マンガアプリもそうですよね。サブスクではなく「まとめ買い」が主流になっている。実際、マンガ業界でサブスクをやってみたら全然儲からなかったという話もありますし。結果的には、まとめ買いのほうが設計としては正しい気がしますね。
澤村:そうですね。ここはまだ僕の中でも仮説レベルなんですが、そもそもよく言われている話として、やっぱり文化的な背景の違いが大きいのかもしれません。たとえばドラマってもともと「無料で観られる」のが当たり前のものだった。そこにサブスクが入ってきて、「一定額払えばたくさん観られる」という認知が徐々に形成された。一方でマンガは、もともと「お金を払って買うもの」という認識が根づいている。この文化的な前提の違いが、ビジネスモデルの受け入れ方にも影響してるのかもしれませんね。

中川:いかに“ドラマを観ている”とか“映画を観ている”という感覚から離せるかなんですよ。むしろ比較対象として近いのはソシャゲだと思います。たとえばBUMPさんの作品だったら、僕は感覚的に「ツムツム」くらいをイメージしているんですが、「ツムツムであれだけ課金するなら、こっちのほうが安いじゃん」みたいな感覚があると思っていて。だからむしろ、いっそゲーム的な要素をもっと入れて、「ソーシャルゲーム風ドラマ」みたいに名乗ったほうが、逆に儲かるんじゃないかとも思ってるくらいです。もともとゲームって、昔はパッケージを一度買って終わりだったじゃないですか。それがソシャゲになって、フリーミアム(基本無料+課金)モデルで継続的に課金されるようになった。今やっているショートドラマも、その延長にある感覚なんですよね。
澤村:そこはトレードオフなんですよね。市場を作る側の立場からすると、あまりにも新しすぎるものって、ユーザーがとっつきにくい。だから何か既存のモデルに寄せて「これはこういうものです」と伝えたほうが、パッと聞いたときに理解されやすい。そのほうが普及もしやすいんですよね。
中川:そうそう。だから今だからこそ言えるけど、当時に戻ったとしても、「ザ・ショート」とかはたぶん名乗ってないと思うんですよ。だって説明つかないし。「それ何?」ってなるじゃないですか。あれ、BUMPが始めたときってTikTokとかで、単話型のショートドラマやっていましたよね?
澤村:SNSのショートドラマはやってなかったです。YouTubeの10分ドラマくらいですかね。
中川:今ってBUMPでやっているものと、SNSで流れるショートドラマってどう言い分けてます?
澤村:「従量課金型ショートドラマ」と「SNSショートドラマ」で分けていますね。
中川:あー、SNSショートドラマかぁ……。実はこれ、いつも言い方に悩んでいて。従量課金というのはあくまで“ビジネスモデル”の話だから、それでいくなら「広告タイアップ型」という言い方もしなきゃいけないのかなとも思ったんですけど……。
澤村:たしかに(笑)。でも僕も資料ではそんな感じで書いていますね。
中川:ただ、それってユーザーに対しては全然刺さらないんですよね(笑)。以前は「単話型」とか言ってたこともあるけど、やっぱり「従量課金かSNSか」という分け方がわかりやすいかもしれないですね。

――「“ショートドラマ”という呼び方は本当に正しいのか?」というのはおもしろい論点だと思います。中川さんがおっしゃっていた“ドラマの亜種”というより“ソーシャルゲーム的な文脈”で捉えたほうが本質をとらえているのでは? という視点は非常に興味深いです。
中川:もちろん“ゲームの亜種”といっても、あくまで“ユーザーが何と置き換えているか”という視点の話ではあります。僕らが想定しているペルソナがソシャゲのユーザー層に近いという意味であって、表現そのものとしては、やっぱり映像作品だと思います。だから“ゲームです”と言うのは違うと思うし、かといって“ドラマです”と言ってしまうと、今度はテレビドラマ的な期待値が乗っかってきてしまう。なので、たとえば“フラッシュストーリー”みたいな別の呼び方があってもいいのかなと思っているんですよね。ユーザーの期待値の面でも、作り手のマインドセットの面でも、“これはドラマとは別物”だと思ってもらったほうがいいと思っています。“ドラマ”と名乗ってしまうと、ユーザーはどうしてもNetflixとか、地上波のドラマとか、そういう作品を無意識に思い浮かべてしまって「それと比べてどうなんだ?」という評価軸に引っ張られる。一番わかりやすい例が「YouTuber」という言葉です。もしあれが「ネット芸能人」などと呼ばれていたら、今のような広がり方はしていなかったと思うんです。テレビのバラエティ番組と比べたら、YouTubeの動画は制作コストもクオリティも全然違うはず。でも誰もそれを劣っているとは思っていない。
澤村:それって“勝ったサービス”があとからジャンル名を決められる、みたいな話じゃないですか?
中川:もちろん、それはありますね。
澤村:だからたとえば「ショートドラマ」という言葉が、将来的に「BUMPみたいなもの」という意味で定着する可能性も全然あると思うんですよ。
中川:ありますね。そういう意味では、まさに“バンパー”ですよね。
澤村:あともう一つ思うのは、中川さんの言ってることはすごく理解できるんですが、やっぱりこれは“戦略”とセットなんですよね。その概念を広く浸透させようと思ったら、めちゃくちゃマス広告を打たないと難しい。スタートアップって、限られた時間と市場で勝負しなきゃいけないじゃないですか。そうなると、「ショートドラマ」という呼び方のほうが、やっぱりユーザーには早く伝わりやすいと思うんです。だから今振り返ってもう一度同じ立場に立ったとしても、たぶん僕は「ショートドラマ」とか「短尺ドラマ」と呼んでる気がしますね。でも、世の中の人はまだ「ショートドラマ」とはあまり言ってないですよね。
折茂:「ショートドラマって知ってる?」って聞くと、「あー、Facebookに流れてくるあれでしょ?」ってよく言われます。
澤村:そうそう。だから、まだまだこれからなんだろうなって思います。
折茂:結局、大ヒットする作品が出てきたときにメディアがどういう言葉で報道するかだと思います。





















