『べらぼう』でも描かれる“米騒動” 現実とリンクする江戸時代の米価高騰を考える

少なからず、悪い予感はあったのだ。田沼意次(渡辺謙)の治世に徐々に陰りが見えつつあるなかで、一縷の望みを賭けて企てていたのが、松前藩が治めていた“蝦夷の上知(あげち)”だった。しかし、大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合)第27回「願わくば花の下にて春死なん」のラストには、上知の準備を着々と進めていた田沼意知(宮沢氷魚)が、旗本・佐野政言(矢本悠馬)に斬りつけられてしまう。
そんな意知に降りかかる悲劇の元凶であり、田沼の治世が崩壊の一途を辿る引き金となったのが、1783年(天明3年)に起きた浅間山の噴火によって決定的となった米の凶作。いわゆる“天明の大飢饉”を引き起こした米騒動だ。

現実でも「米の値段が高騰している」との報道が連日、世間を騒がせていたなか、第25回「灰の雨降る日本橋」から似たような状況下で米の高騰が描かれたときは、なんてタイムリーな話題なのだろうと驚いたものだ。「米って今、値上がってんですよね」「ほぼ昨年の倍です」と、蔦重(横浜流星)と妻・てい(橋本愛)が交わすやりとりなど、嫌というほど聞き覚えのある会話だと感じた人も多いのではないだろうか。
やっとの思いで日本橋に棚(店)を構える手はずを整えた蔦重にとって、米価の高騰による棚子への支出や市中経済の停滞は思わぬ打撃だった。しかし、なぜそもそも米騒動は起きてしまったのだろうか。

第一に、前述した米の不作によって生産量が落ち込み、米の総量は大幅に減っていた。その上、地方から米が供給される都市部においても、米価が高騰するにつれて卸業者は米を売り惜しむようになる。一度、負のサイクルが回り始めれば、簡単に止まることはない。堂島や米問屋、仲買人に米の値を下げるようにと幕府のお触れが出ようとも、米屋に仕入れ値で米を売り渡せと上から命じようとも、彼らが足元を揃えて米を蓄え持っていれば意味がないのだ。
市民にまで米が行き渡らない状況が続くなか、彼らの募る不満の矛先は、自ずと世を治める幕府へと向き始める。元より“重商主義政策”を推し進めてきた田沼への風当たりが強くなっていた渦中で起きた米騒動は、市民が溜め込んでいた不満を爆発させるには充分すぎるものだった。




















