『あんぱん』“草吉”阿部サダヲが再登場 あんぱんもどきを焼くシーンに込められた意味とは

NHK連続テレビ小説『あんぱん』第16週「面白がって生きえ」第80話は、釜次(吉田鋼太郎)の遺影に始まり、釜次の「ほいたらね」で終わる、亡くしたことでその人の存在を改めて実感する回だった。筆者が第16週を観て思い返したのは、第1週で結太郎(加瀬亮)があの世に旅立った後、草吉(阿部サダヲ)が作ったほかほかのあんぱんに朝田家が生きる力をもらう第5話のシチュエーションだった。

釜次の葬儀が営まれる中、草吉が6年ぶりに姿を見せる。麦わら帽子を脱ぎ捨て、祭壇に駆け寄り、「ひでぇじゃねぇかよ」と一言。釜次と草吉は一見すると犬猿の仲のようにも見えるが、戦地で壮絶な飢餓を味わった草吉を釜次が思いやる、ある種、2人だから言い合えるような特別な関係性だった。「ひでぇじゃねぇかよ」も、素直になれない草吉なりの“先に行くなんて”といった意味合いの言葉に捉えられる。
役者の芝居によって、セリフは額面通りの意味を超えたものになるのが、映像作品としての面白さだ。葬儀を終え出社したのぶに、東海林(津田健次郎)が「お前は記者に向いちょらん」と切り出す。一生懸命になればなるほど、客観性を失い、それが記者としては致命的。「子供に同情する記事ばっかり書いちゅうんは、軍国教育に加担した罪滅ぼしのつもりか? ジャーナリストとして、事実を冷静に伝える記事を書けるとは思えん。自分をねじ曲げて、そうなる必要もない」と伝えるが、その緊張した面持ちと少し辿々しい話し方は、のぶを鉄子(戸田恵子)の元に行かせるためにあえて酷い言い方をしていることが分かる。このままでは、恩返しを理由にのぶが高知新報にい続けるからだ。「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」である。

そんなのぶを、次郎(中島歩)、鉄子、釜次の言葉が背中を押す。釜次の仏壇に手をあわせるため、朝田家を訪ねた嵩(北村匠海)も居合わせる中で、のぶは東京行きの決断を家族に伝える。代議士・鉄子の元での手伝い、つまりは秘書としての立場になるだろう。




















