『あんぱん』のぶが父と祖父から託された“大志” 鉄子との出会いを経てさらなる未来へ

NHK連続テレビ小説『あんぱん』第79話では、これまで何度も不器用な愛で孫たちに接してきた釜次(吉田鋼太郎)が、最後までユーモアを絶やすことなく、のぶ(今田美桜)ら3姉妹と嵩(北村匠海)に永遠の別れを告げた。

“釜じい”の愛称で孫たちから親しまれた釜次をチャーミングに演じたのは、朝ドラ初出演作である『花子とアン』(2014年度前期)で脚本を務めた中園ミホとの再タッグとなった吉田鋼太郎。職人肌で頑固な考え方をしているものの、ときに気合いが空回りして周囲を呆れさせたり、孫たち3姉妹の押しには案外弱かったり。土佐弁を快活に話す釜次は吉田の抑揚のある芝居によって、間違いなく視聴者からも愛されるキャラクターとなった。
高知新報から出版された『月刊くじら』に載るのぶの記事を読んで、くらばあ(浅田美代子)や羽多子さん(江口のりこ)と豪快に笑い合う姿が映し出されるたび、その朗らかな表情には、孫を思う祖父としての顔が見え隠れする。ただ一方で、のぶにとっての“釜じい”は、真正面から父の厳しさを体現してくれた存在でもある。父・結太郎(加瀬亮)は「女子も大志を抱けや」と夢に向かって進む道筋を示してくれたが、当時の時代背景から推察するに、現実の道のりは何とも険しいものだったはずだ。釜次の厳しさの根源には、自由奔放に夢を探求する孫の明るい未来を願う不器用な優しさがあった。

釜次自身、息子の結太郎を病気で亡くし、心底かわいがっていた弟子の豪(細田佳央太)が戦死するなど、悲嘆に暮れてしまう苦しい状況が続くなかでも、朝田家のたったひとりの男手として家の大黒柱で在り続けてきた。代々、営んできた石屋を継ぐことなく、あまりにも早すぎる死を遂げた息子のこともあって、これまでのぶには一段と時代に沿った生き方を推奨してきたように思う。彼女が女子師範学校を経て“愛国の鑑”と呼ばれるようになった教師時代は、隣人たちにのぶのことを鼻高々に話していた姿も記憶に新しい。
しかし、そんな保守的な彼が迫りくる死を目の前にして、のぶへ最後に送った言葉は「おまんを待ちゆう人がおったら、そこに向こうて走れ。おまんが助けたい人がおるがやったら、どればあ遠くても走っていけ」という愛と自由に満ちたメッセージだった。

のぶもまた、戦争の終結によって夢を見失っていたなか、思いがけないきっかけから高知新報に入社することになる。東海林(津田健次郎)や岩清水(倉悠貴)の助けも借りつつ、孤児たちへの取材や新たな月刊誌の立ち上げなど、目の前の仕事をガムシャラにこなす毎日。次郎(中島歩)から託された「全力で走れ 絶望に追いつかれない速さで」という遺言を反芻する姿を観ていると、いつのまにか彼の言葉は、のぶにとってどこか切迫感を抱かせる言葉へと変わっていたのではないだろうか。




















