『鬼滅の刃』柱稽古とは何だったのか? 『無限城』に備えてどんな能力アップがあったか分析

『鬼滅の刃』柱稽古とは何だったのか?

 続いては、極太の丸太を3本担ぐ訓練だ。原作漫画ではわからなかったが、これも地面直置きの丸太を自力で引っ張り挙げて肩に担ぐようだ。これは、ウエイトリフティングにおけるハイクリーンの動きである。筋力は当然として、引っ張り挙げる際の瞬発力や爆発力を必要とする。滝浴び空気椅子で作った筋肉を、実際に使える筋肉にするための鍛錬と言える。大正時代にこれだけのウエイトトレーニングの知識がある悲鳴嶼を、尊敬する。鍛錬後の食事が主に焼き魚であるところも、良質なタンパク質が摂れて素晴らしい。

 最後の鍛錬である巨岩一町(約109m)押しも、これまで鍛えた足腰の筋力と爆発力をフルに発揮できなければ、完遂不可能である。また悲鳴嶼の偉いところは、隊士に命じた以上の鍛錬を、自らに課している点だ。より大きな岩を押しているし、足元を炎であぶった状態で岩の重りを足した丸太を担いでの空気椅子に至っては、もはや意味がわからない。だが、命じるだけで自分は何もしない指導者と、弟子と同じかそれ以上の鍛錬を自らも行い、背中で語れる指導者。ついていきたくなるのは、どちらだろうか。

 悲鳴嶼の鍛錬は、自己判断でギブアップして下山してもいいらしい。これは、優しさに見えてとてつもなく残酷だ。柱から、「お前は隊士失格。鍛え直して出直してこい」と言われたなら、負けじ魂で燃え上がる隊士もいるだろう。だが、自分で自分に失格を突き付けてしまったら。自分の意志で楽なほうに逃げてしまったら。もう戦いの場には戻れない気がする。アニメでは、「俺たちは後方支援をがんばるよ!」と爽やかに宣言していたが、人間は、そんな簡単に方向転換できるものではないと思う。原作での彼らの描き方は、あくまで「脱落者」だった。

花澤香菜は“愛されるキャラ”を生み出す名人 『鬼滅の刃』甘露寺蜜璃はギャップが魅力に

花澤香菜の声には、人を惹きつける柔らかさと、ふとした瞬間にのぞく芯の強さがある。かわいさ、儚さ、そして時折にじむ妖しさ。その振り…

 さらに、この柱稽古のメニューがよく考えられていると思う点がある。それは、恋柱・甘露寺蜜璃による地獄の柔軟が含まれていることだ。「なんだただのストレッチか」と思うかもしれないが、柔軟性を馬鹿にしてはいけない。筋力と柔軟性は、セットで考えなければならない。柔軟性のない固い筋肉は、すぐにケガをする。それも自らの攻撃で、肉離れや筋断裂を起こす。まさに筋トレばかりやって柔軟をサボっていた筆者は、いつもケガをしていた。常に体のどこかが肉離れか部分断裂をしていた。

 甘露寺は、生まれつき常人の8倍の筋肉密度を持つ。そのため、さらなる筋力向上よりも、その8倍筋力を使いこなせるだけの柔軟性獲得を重視したのだろう。ちなみに彼女が提供する食事は、巣蜜を乗せたパンケーキである。筋力にも柔軟性にも関係ない。だが「この地獄の柔軟を乗り越えたら、今日もパンケーキが食える!」と思えば、やる気も湧いてくるというものだ。パンケーキ美味しいから。その点風柱は、ひとりで隠れておはぎを食べていてずるい。

 この『柱稽古編』の最終話において、鬼殺隊党首・産屋敷耀哉と鬼舞辻無惨が、最初で最後の邂逅を果たす。産屋敷は、無惨を道連れに、妻子もろとも自爆。炭治郎や各柱が駆けつけたところで、無限城への扉が開く──。

 7月18日、いよいよ『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が公開される。この物語も、終わりが見えてきた。『無限城編』は、クライマックスにふさわしい激闘に次ぐ激闘が繰り広げられる。興奮必至だが、同時に、多くの別れとも直面しなければならない。原作通りなら、あの人は死ぬだろう。あいつとあいつの長い因縁にも、終止符が打たれるだろう。そして、善悪関係なく、筆者がもっともシンパシーを抱くキャラの戦いと、その後のエピソードまで観られるかもしれない。

 この原稿を書いているのは7月5日。どうやら地球は滅亡しなかったようだ。あのキャラの戦いと最期を観るまでは、何があっても死ねないと思っていた。7月18日、『鬼滅の刃』で筆者がもっとも観たかったシーンが、無事観られるようだ。『無限列車編』の対になる物語だ。煉獄杏寿郎の死に涙した方は、必ず観なければならない。

■放送情報
『特別編集版「鬼滅の刃」柱稽古編 開幕編』
フジテレビ系にて、7月16日(水)19:00~放送
キャスト:花江夏樹(竈門炭治郎役)、鬼頭明里(竈門禰󠄀󠄀豆子役)、下野紘(我妻善逸役)、松岡禎丞(嘴平伊之助役)
原作:吾峠呼世晴(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
美術監督:衛藤功二
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
アニメーション制作:ufotable
主題歌:Aimer「残響散歌」「朝が来る」
©︎吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

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