米アニメ界に思わぬ伏兵 『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』が絶大な人気を得た理由

『KPOPガールズ!』が人気を得た理由

 このようなジャンルの横断を整理したのは、優れた物語構造だといえよう。さまざまな要素とともに、キャラクターたちが個々に持っている背景やトラウマ、そして責任への重圧が、クライマックスの克服というイベントに向かって集まっていく設計が、見事に機能しているのである。

 華やかなパフォーマンスと命がけの戦闘を二重生活として描くといった趣向は、ここではK-POPスターに求められる“完璧さ”の裏にある犠牲や鍛錬、個人としての人間性の喪失などといったものの象徴となっている。そして、お互いや自分自身の“違い”を乗り越え、偏見や排外といった現代的な問題に答えを与えるテーマが、作品の内容を包括するのである。

 本作のアイデアを生み出したのは、今回初監督を務めたマギー・カンだ。彼女は韓国のソウルで生まれ、カナダのトロントで育ち、大学でアニメーションを学んでのち、「ドリームワークス・アニメーション」でストーリーアーティストとしてキャリアをスタート。「イルミネーション・エンターテインメント」、「ワーナー・アニメーション・グループ」でもストーリーを手がけてきた。

 複数の国の文化を受け継ぎながら、アメリカのメジャーなアニメーション作品を、ストーリーの点から支えてきたマギー・カン監督だからこそ、本作のさまざまな要素をまとめ上げ一本の柱を通すという、はなれ業を成し遂げたのだと考えられるのである。また、『ウィッシュ・ドラゴン』(2021年)を手がけた共同監督のクリス・アッペルハンスが、全体のクオリティを保つ点で大きな役割を果たしたことも想像に難くない。

 ソニー・ピクチャーズ・アニメーションは、『スパイダーバース』シリーズや『ミッチェル家とマシンの反乱』(2021年)など、近年はとくに個性的な作品を送り出している。本作でも、アメリカの3DCGアニメーションとしての一線級の実力を見せるだけでなく、キャラクターたちの動きについて、意図的にフレームレートを落とすことによって、ストップモーションアニメーションのような効果を出すなど、アーティスティックなテイストにこだわっているところも印象的だ。

 そして、TWICEのメンバーによるオリジナル楽曲参加など、業界屈指のサウンドチームが関与しているだけに、音楽の完成度も高い。ステージでのパフォーマンスシーンは、アクションとダンスが音楽にマッチすることで、アニメーションとしての表現と音楽のエモーションが、キラキラとした印象を放ちながら、派手に一体化する。

 物語やテーマが、派手なライブシーンで昇華するといった仕掛けは、K-POPのステージで実現することは難しい。だが本作は、映画、アニメーションのストロングポイントを活かしながら、パフォーマンスに強いエモーションを与えることで、楽曲と映像を相乗的に高めていくサイクルを生み出し得ているのである。しかも、そのK-POP自体もまがいものではなく、グローバル勝負できる内容となっている。本作の人気は、そんな映像、物語、音楽といった、映画ならではの総合的な価値が支えているということなのだ。

 本作の成功によって、こうしたコラージュ型のエンタメ作品は、今後増えていくだろうことが予想される。その第一歩として、本作はあまりに“完成形”に近いものだったといえるかもしれない。節操のないSNS時代の混沌を武器に変え、ミクスチャーに振り切ったという意味で、本作『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』は、まさに時代の申し子といえるような一作となったのである。

参考
※ https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/151371/2

■配信情報
『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』
Netflixにて独占配信中
出演:アーデン・チョー、アン・ヒョソプ、ケン・チョン、イ・ビョンホン、ダニエル・デイ・キム、メイ・ホン、ユ・ジヨン、キム・ユンジン、ジョエル・キム・ブースター、ライザ・コーシー
監督:マギー・カン、クリス・アペルハンス
脚本:デイナ・ヒメネス、ハンナ・マクメチャン、マギー・カン、クリス・アペルハンス

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