『おとなになっても』綾乃×朱里の“あらがえない思い” 映像化ならではの演出を振り返る

あらがえない。Huluオリジナル『おとなになっても』を観ているとそんな言葉が頭に浮かぶ。
『おとなになっても』は、志村貴子による同名漫画を原作とした作品。小学校教師・大久保綾乃(山本美月)と、ダイニングバーで働く平山朱里(栗山千明)がひょんなきっかけで出会い、キスをしてしまうところから始まる。楽しい恋愛の始まりと思いきや、綾乃は既婚者だった。朱里は、綾乃が既婚者だと知った後も綾乃に惹かれる気持ちを否定できない。

綾乃と朱里の恋模様を観ていると、理性や倫理観ではカバーできないあらがえない感情に突き動かされる人間の姿が、なんとも愛おしくなる。どうにか綾乃から離れようと、綾乃の連絡先を消し、住まいを変え、職場を変えたりと努力する朱里だが、引っ越した先には綾乃の義実家が。偶然再会してしまったら、恋心にあらがえるわけがない。何度も連絡先を消し、それを後悔するなど、朱里は自分の感情に振り回されている。離れようとしても離れられない朱里の様子に、少なからず共感できるという人は多いだろう。

あらがえないのは、主人公の2人だけではない。綾乃の夫・大久保渉(濱正悟)もそうだ。朱里に恋をした綾乃の正直な告白に傷つけられた渉だが、どうにか再構築しようと実家で同居を始める。子どもについても考えようと綾乃に歩み寄る姿勢を見せるが、綾乃と朱里が会っていることを知ってしまうと、綾乃を責めずにはいられない。渉の言葉が綾乃を傷つけることはわかっているのに、自分の中に生まれた不満を理性で抑えることができないのだ。
綾乃の義妹・ 恵利(錫木うり)もそうだ。長年引きこもって生活していた彼女が、見た目を変えようと思えたり、前を向けるようになったのは、恋がきっかけだった。しかし、その相手である朱里の美容室の上司・森田(桐山漣)は既婚者だ。恵利との一線は引きつつ、ホテルに行き、キスもするのらりくらりとした森田の態度は、ずるいの一言に尽きるのだが、恵利も既婚者の恋はダメだと理解しつつも連絡することをやめられない。自分を変えるきっかけをくれた相手への恋心にあらがえないのだ。
さまざまな事情に苛まれて理性を保とうとしても、恋や愛が混じると自分の想いを相手にぶつけたいという感情からはあらがえない。おとなになってもだ。
本作では、登場人物たちの人間らしさを浮き彫りにするために複数の人物のモノローグが存分に描かれている。ここまで登場人物の心の声を聞かせてくれる作品はそうないだろう。特に朱里の心の声が豊富で、朱里を演じる栗山千明の涼やかなビジュアルに反して、「もう好き!」などの正直すぎる心の声が響くことで、朱里ならではのキュートさが際立っている。恋をする人間はたまらなくかわいらしい。モノローグを通じて、恋に翻弄される人間の真の姿が見られることこそ、『おとなになっても』の魅力だろう。




















