森七菜の芝居はなぜ“存在感”があるのか 『国宝』『フロントライン』で示した唯一無二の魅力

森七菜の芝居はなぜ“存在感”があるのか

 6月に公開された『国宝』と『フロントライン』。錚々たるメンバーが肩を並べた両作の舞台挨拶で、森七菜の小柄さに思わず目がいった。両作品に出演する森は、それぞれで物語を動かしていく重要な役を担っている。

 2016年に地元・大分でのスカウトをきっかけに芸能界へ進んだ森。2019年に新海誠監督の劇場アニメ『天気の子』でヒロイン・天野陽菜の声を担当し、注目を集める。続けて、NHK連続テレビ小説『エール』(2020年前期)ではヒロインの妹役を演じ、さらに『この恋あたためますか』(2020年/TBS系)で連続ドラマ初主演も果たした。しかし、2021年に当時所属していた事務所を退所。その後しばらくは目立った露出はなかったが、2023年に是枝裕和監督が総合演出・脚本を務めたNetflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』で出口夏希とW主演。近年は『四月になれば彼女は』(2024年)や『ファーストキス 1ST KISS』など映画への出演が続いている。

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 そんな森が出演している『国宝』は、公開から1カ月経った今もなお注目を集めている話題作だ。本作は、作家・吉田修一による同名小説を映画化し、芸の道に人生を捧げた喜久雄(吉沢亮)の半生を描いている。監督を務めたのは、『フラガール』(2006年)や『悪人』(2010年)、『流浪の月』(2022年)を手掛けた李相日。吉沢のほかに、横浜流星や渡辺謙、田中泯などが出演しており、森は、歌舞伎役者・吾妻千五郎(中村鴈治郎)の娘・彰子を演じている。

『国宝』©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

 喜久雄のことを慕う彰子(森七菜)が登場するのは物語後半から。二代目・花井半二郎(渡辺謙)が亡くなり、血のつながりを持たない喜久雄は歌舞伎界で孤立してしまう。自分ではどうにもできない“血のつながり”を求め、彰子と関係を持つ。そんな喜久雄の思惑に千五郎(中村鴈治郎)は激昂し、彰子の目の前で罵倒。しかし、彰子は家を捨て喜久雄を選ぶ。そして、2人は歌舞伎の世界から姿を消すことになった。

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 彰子、いや森がすごいのは、ここからだ。各地の宴会場で芸を披露してまわる喜久雄がどんどん霞んでいくのに対し、彰子は日に日にたくましくなり、強さが増していく。甘くてかわいい、まだ幼さが残る女の子から、強い意志と覚悟を持った女性へと変化するのだ。その背景に何があったのかは描かれないのだが、彰子の苦悩は想像に容易い。喜久雄を見つめる目には、愛おしさよりも不安や悲しみ、怒りが見て取れる。それでも、喜久雄のそばから離れなかったのは、彰子の芯の強さだ。結果的に、これらの経験はその後喜久雄の血肉となっていく。そんな日々を隣で支えた彰子は、本作において重要な役どころであったことは言うまでもない。だからこそ、“その後”に彰子の姿がないのがなんとも切ない。上映時間3時間の映画で、筆者の体感としては、彰子の登場シーンは20分程度といったところだろうか。森は限られた時間の中で、1人の女性の成長と変化を見事に演じてみせたのだ。

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