『ドールハウス』『見える子ちゃん』など 2025年に誕生した異なる3タイプの傑作“Jホラー”

いま、Jホラーが面白い。いや、そんなことは毎年言われてきていることなのだろうけど、2025年は特に興味深い展開を見せている。1990年代に産声をあげたこのジャンルが、新しい語りを獲得して、その領域を拡張しつつあるからだ。
Jホラーの歴史を簡単に振り返ってみよう。その出発点といえる作品が、1996年に公開された中田秀夫監督の映画『女優霊』だ。物音や気配によって描かれる、「想像力に訴えかける恐怖」。撮影スタジオという日常空間を舞台とすることで生まれる、「生活に潜む恐怖」。過去の悲劇が現代に影響を及ぼす、「因縁と怨念」。興行的には大ヒットに至らなかったものの、そのスタイルは確実に後のJホラーブームの礎を築いた。
『女優霊』で培われた手法は、2年後に『リング』で開花する。貞子という強烈なアイコンと、呪いのビデオという現代的なギミックを融合させることで、社会現象となる大ヒットを記録。口コミで恐怖が広がるという構造そのものが、映画の成功とリンクした。本作はやがて『らせん』、『リング2』、『貞子3D』へと発展し、『呪怨』や『富江』シリーズを生み出す土壌となる。
土着的な怨念/日常に潜む恐怖を追求する心霊系ホラーとは別に、サイコスリラー的なアプローチも確立されていく。黒沢清監督の『CURE』、三池崇史監督の『オーディション』は、90年代を代表する作品と呼んでいいだろう。この流れは、『悪の教典』、『凶悪』、『ミュージアム』、『スマホを落としただけなのに』へと続くことになる。
ゼロ年代には『ノロイ』や『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズなど、POV(主観視点)やフェイクドキュメンタリーの手法を取り入れた作品も登場。進化と多様化を繰り返すことで、Jホラーは一部の好事家だけでなく、マスの層に訴えうるコンテンツへと成長した。そして今や、興行面でも日本映画の重要ジャンルとなっている。2020年以降で、興行収入10億円を突破した主要タイトルを挙げてみよう(※)。
『犬鳴村』(2020年):14.1億円
『事故物件 恐い間取り』(2020年):23.4億円
『カラダ探し』(2022年):11.8億円
『あのコはだぁれ?』(2024年):11.6億円
『変な家』(2024年):50.7億円
特に『変な家』は、原作がWebメディア記事やYouTube発であることからZ世代と呼ばれる若年層に大きくリーチし、50億円を突破。大きなブレイクスルーとなった。単なるジャンピングスケアだけではなく、「この奇妙な間取りにはどんな意味があるのか?」という謎解き要素(=ミステリー)と組み合わせることで、知的好奇心を刺激した側面も見逃せない。
そして2025年は、①他ジャンルとのマッシュアップJホラー、②ひとつの映画のなかで次々と恐怖表現が切り替わるJホラー、③90年代からの伝統を受け継ぎつつ、さらに濃度を高めたJホラーと、異なる3タイプの傑作が誕生した……と、筆者は思っている。中村義洋監督の『見える子ちゃん』、矢口史靖監督の『ドールハウス』、そして近藤亮太監督の『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』だ。
異なる3タイプの傑作Jホラーが誕生
泉朝樹の漫画を映画化した『見える子ちゃん』は、怖がりの女子高生・四谷みこ(原菜乃華)が、普通の人には見えない“異形のもの”が突然見えるようになってしまうお話。普通ならば、恐怖に怯えたり、対処法を探したり、時には霊と戦ったりするだろう。ところが彼女は、恐ろしい幽霊がすぐそばにいるにも関わらず日常生活を優先し、ひたすら見て見ぬふりを貫く。
当然、彼女にはお祓いをする能力も備わっていない。楽しい学園生活を過ごすために、ただただやり過ごす主人公の姿は、とってもチャーミング。日常生活に突如として“異形のもの”が闖入することで、小さじ一杯分の恐怖とほのかなユーモアが生まれている。『見える子ちゃん』は、青春コメディというフォーマットにうっすらホラー風味をまぶせた、「①他ジャンルとのマッシュアップJホラー」なのだ。

「見て見ぬふりをする」という挙動が、実は家族問題を描くためのトリガーになっていることも、作劇として非常に巧い。まさか、最後の最後で泣かせに来るとは! そして、まんまと泣かされてしまうとは! この映画における恐怖、笑い、感動のバランス感覚は、見事としかいいようがない。




















