『28年後...』は血まみれ少年ロードムービーだ ラスト10分の“偏差値フリーフォール”の衝撃

最後の10分で偏差値が10は急降下! 『28年後...』(2025年)は、血まみれ少年ロードムービーである。『28日後...』(2002年)と『28週後...』(2007年)の続編だが、直接的な物語の繋がりは低いので、観ていなくて問題はないだろう。予習なく、井上陽水の「少年時代」か、久石譲の「Summer」が聞こえてきそうなこのお話を受け止めてあげつつ、最後の10分で映画の偏差値が自由落下する瞬間を感じてほしい。
物語はこんな感じである。イギリスは、人間を激烈に凶暴化させる“レイジウイルス”のパンデミックに襲われた。感染者たちは爆発的に増え、世界滅亡の危機に陥るが……そこは人類、何とかウイルスの封じ込めには成功する。しかし、発生源のイギリスは国ごと隔離されてしまい、数少ない生き残りは孤島で小さな集落を作って暮らしていた。難しいお年頃の少年スパイク(アルフィー・ウィリアムズ)も、その1人である。ある日、スパイクは男の通過儀礼として、父親と一緒に本土へ渡ることに。しかし、それが思いがけない人生の転機になってしまい……。
最初に書いた通り、本作の主人公は12歳の少年であり、少年が“ひと夏の冒険”を経て、大人の階段を上る話である(夏ではないが、夏ということにしておこう。なんかほら、そういう“ひと夏の冒険”としか言いようがない感じってあるじゃないですか)。もちろんレイジウイルスの感染者は出てくる。いつもの全力疾走BOYS&GIRLSに加えて、地面を這うだけの太ったヤツから、身長2メートル級の異常怪力男・通称“アルファ”など、これまでより確実に多種多様だ。さらにアルファは、生き物の頭部を脊髄ごと引っこ抜かないと気が済まないという非常に厄介な性質を持っている。そんな困った感染者が出てくるので、『28週後...』のヘリコプターアタックにも負けない、非常に景気が良い人体損壊も炸裂! 血が見たいお客さん的にも満足できるだろう。
とはいえ、本作の中核は少年の成長だ。主人公のスパイクには、病に倒れている母親がいる。島での暮らしはアナログそのものなので、適切な治療はおろか、その病名すら分からない。しかし、確実に母は病によって壊れていく。激しい痛みを訴え、意識は混濁し……そんな母を見ていられず、少年は冒険に出るのだ。しかし、その果てに待っているのは、全人類が大人になるまでには知ることになる、当然の常識である。