シム・ウンギョンが考える人間の本質 『火星の女王』は「集中力と自然さを発揮できた」

NHK放送100年特集ドラマ『火星の女王』が台湾出身のスリ・リン、菅田将暉ら豪華キャストの出演と、VFXを駆使した本格SFストーリーで大きな話題となっている。
直木賞作家・小川哲の小説を原作とし、火星に10万人が移住した世界を舞台に、未知の力を持った謎の物体が現れたことで新たな時代が動き出すさまを描いた本作。
物語のキーパーソンとなる“ガレ-J0517”を演じたのが、日韓で活躍するシム・ウンギョンだ。ガレは地球出身者が高位を占めるISDA火星支局の中で、火星生まれ火星育ちでありながら異例の出世を遂げ、副支局長まで上りつめた人物。第2話のラストで視聴者に衝撃を与えたシム・ウンギョンに、ガレにとって家族同然の存在・マルを演じた菅原小春との撮影の裏側や、多言語が飛び交った現場の雰囲気について話を聞いた。
監督とのコミュニケーションで作り上げたガレというキャラクター

――本作はかなり壮大なストーリーですが、台本を読んだ際の率直な感想を教えてください。
シム・ウンギョン:人間の本質が丁寧に描かれた作品だと思いました。本作の主な舞台は100年後の火星ですが、そこで暮らす人々の絆、誰かを思う気持ちは、2025年の地球にいる私たちと何ら変わりない。そんな美しいメッセージ性を内包する物語に惹かれました。
――今回演じるガレは火星生まれ火星育ちという、なかなか後にも先にもないような役柄だったと思いますが、役作りはどのように進めていったのでしょうか?
シム・ウンギョン:役作りにあたっては演出の西村武五郎さんが撮影前に、ガレの働いているISDAが火星でどういう役割を果たし、具体的にはどんな仕事をしているのかといった詳しい設定を教えてくださったのと、地球と通信する会議室のセットを写真で見せていただき、想像を膨らませていきました。またガレの場合は、画面に映っている限りでは感情が見えにくいキャラクターでもあるので、その都度、西村さんに「ガレはこの時、どんな気持ちなんですか?」と確認するなど、コミュニケーションがとても大事な現場だったと思います。
――シムさんご自身は、ガレというキャラクターのどこに魅力を感じましたか?
シム・ウンギョン:ガレは、私がこういう人になりたいと常々考えている要素をたくさん持ったキャラクターです。いつも火星で暮らす人々のことを考えている、真面目で情熱的な人。特に信念を持って、どんなやり方でも自分の大切な仲間を守ろうとする姿に感動しました。共感もしますし、憧れもします。
「菅原小春さんの熱いお芝居で、自然とガレの心情になれた」

――第2話のラストでは、ガレが火星内の互助組織・コクーンの創始者であるシュガー(ソウジ・アライ)の妹で、ISDAの地球帰還計画を阻止するためにリリ(スリ・リン)の誘拐を主導していたことが明らかになりました。
シム・ウンギョン:この展開を知ったとき、私はガレのことを勇気のある人間だなと思いました。ガレにとってISDAは、最愛の兄の命を奪った憎しみのある場所かもしれない。でも、わざわざそこに入り、努力の末に副支局長まで上りつめて、ISDAの秘密を暴こうとしたガレはすごいですよね。かといって、元から強いわけではなく、傷つきながらも自分の弱さを乗り越えようとしてきたんだと思います。そういう彼女の人間らしさは、本作のテーマにも直結しているなと。改めて重要な役を任せていただけたことが嬉しく、同時に責任を感じました。

――ガレと、菅原小春さん演じるマル、岸井ゆきのさん演じるチップはコクーンで共に育った家族同然の存在です。作中では3人が直接的に関わるシーンはほとんどありませんが、撮影外ではコミュニケーションを取られていたのでしょうか?
シム・ウンギョン:おふたりとは撮影がバラバラなことも多く、コミュニケーションを取る時間はあまりなかったのですが、台本からでも十分に3人の強い絆を感じ取ることができました。それに彼女たちもコクーン解散後は別々の道を歩んできたので、事前にお会いするよりも、ほぼ初めましての状態でお芝居に臨む方が生々しい感情が出せるのではないかと。実際にシュガーたちのお墓でガレとマルが対峙するシーンは、とても熱量の高いものになったと思います。菅原さんの熱いお芝居に圧倒されましたし、そのおかげで私も自然とガレの心情になることができました。

――ガレとマルが対峙するシーンは砂漠のような荒涼とした場所で、かつおふたりとも宇宙服を着用されていました。あの環境でのお芝居は普段とまた違いましたか?
シム・ウンギョン:まずはやっぱり大変でしたね。あのシーンは実際に辺り一面、砂山になっている場所で撮影したのですが、もちろん火星ではないわけで。だけど、本当に自分は火星にいるんだと思えるほど、お芝居に集中しようとしました。ただ、衣装で着た宇宙服が想像以上に重たくて。でも当然、火星で育った人たちは宇宙服に慣れているはずなので、重そうに見えないようにしなければなりません。そこに少し苦労しましたが、頑張った甲斐があるシーンに仕上がったと思っています。



















