『名探偵コナン 隻眼の残像』が大ヒット&高評価 一方でもったいなかった毛利小五郎の役割

『コナン』もったいなかった“小五郎の役割”

 しかし本作では、小五郎と大和は事件を別々に追い、ほとんど共闘シーンがないまま物語が進行する。クライマックスの“解答編”でも、小五郎が行うのはコナン(=工藤新一)から送られてきたメールの“音読”のみ。肝心の推理シーンは皆無で、彼の役割は事件の説明役にとどまっていた。劇中で唯一目立った活躍といえば、銃の腕前を発揮して敵を牽制する場面だが、いずれにせよ“探偵もの”としての醍醐味とは方向性が異なる。劇場版の代名詞である、真相解明に向けた「推理のカタルシス」が弱く、物語としての満足感がいまひとつだったという指摘は、ファンの間でも少なくない。

 さらに、大和との関係性も希薄だったことが惜しまれるポイントだ。脚本家の櫻井は『相棒』シリーズを手がけているだけに、刑事と探偵が即席バディを組んで事件を解決するーーそんな展開を期待していた観客層には、明らかに肩透かしだった。2人の関係が過去のある事件で交差していたという設定は存在するが、劇中での接点はほとんど描かれず、共闘感は乏しいままで終わってしまった印象だ。

 物語全体に漂う“刑事ドラマ臭”と、ラブ要素や公安、検察の思惑が入り混じった硬派なストーリーは、確かに複雑で深みがある。一方で、トリックや謎解きよりもアクションや人間ドラマが前面に出た構成は、純粋な“ミステリーファン”にとっては物足りない内容だったとも言えるだろう。

劇場版『名探偵コナン』は“ファン以外”でも楽しめる? 初心者が『隻眼の残像』を観てみた

『名探偵コナン 隻眼の残像』公開初日となる4月18日8時20分、TOHOシネマズ 新宿の売店は既に長蛇の列であった。土曜日の15…

 とはいえ、興収133億円という数字が示すように、『コナン』ブランドは揺るがない。今後、どんなキャラクターをメインに据えても一定の成功が見込めるという自信が制作陣にはあるのだろう。事実、誰がフィーチャーされてもヒットする現状は、作品の成熟と支持層の広がりを物語っている。だが、その人気に甘えることなく、映画ならではの推理の快感やキャラクターの魅力を丁寧に描いてこそ、劇場版コナンの本領が発揮されるのではないか。

 今回の小五郎には、その機会が与えられていたはずだった。にもかかわらず、物語での役割が“スナイパー”だったのは、やはりもったいない扱いだったと感じざるを得ない。

参照
https://realsound.jp/movie/2025/06/post-2040626.html

■公開情報
劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(せきがんのフラッシュバック)』
全国東宝系にて上映中
キャスト:高山みなみ(江戸川コナン)、山崎和佳奈(毛利蘭)、小山力也(毛利小五郎)、林原めぐみ(灰原哀)、高田裕司(大和敢助)、速水奨(諸伏高明)、小清水亜美(上原由衣)、岸野幸正(黒田兵衛)、草尾毅(安室透)、飛田展男(風見裕也)、鮫谷浩二(平田広明)
原作:青山剛昌『名探偵コナン』(小学館『週刊少年サンデー』連載中)
監督:重原克也
脚本:櫻井武晴
音楽:菅野祐悟
アニメーション制作:トムス・エンタテインメント
製作:小学館/読売テレビ/日本テレビ/ShoPro/東宝/トムス・エンタテインメント
配給:東宝
©2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
公式サイト:https://www.conan-movie.jp/

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