『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』の美点と欠点を徹底解説

このような過去作の振り返りというのは、観客それぞれが個別にやればいいのではないだろうか。それぞれに思い出深いシリーズ作品を、劇中にモンタージュし、一つの“正しい”在り方に収束させてしまうというのは、多様な魅力に溢れていた作品たちの個性を消す方向に作用してしまうと思えるのだ。その象徴となるのが、第3作『M:i:III』(2006年)の重要アイテム「ラビットフット」への言及である。
本作では、「ラビットフット」がイーサンの過去の選択の一部としてクローズアップされ、その責任を問う展開がある。だがそもそも「ラビットフット」の正体がこれまで分からなかったというのは、当時『M:i:III』の劇中において、イーサンが命がけで手に入れたアイテムが、結局最後まで何だったのか分からないという、一種の洒脱な「オチ」として機能させていたからだ。そこが3作目を特徴づけるユーモアだったのにもかかわらず、新たな意味づけをしてしまっては、今後『M:i:III』を観たときの印象が変わってしまうではないか。これは、シリーズのファンとしては疑問に思わざるを得ない点だ。
ウィリアム・ダンローの再登場も同じことだ。確かに、第1作の「NOCリスト」奪取ミッションの完成度は素晴らしく、1996年当時、私も劇場で鑑賞したときに、あまりの面白さに場内全体が沸きまくったことで深く印象に刻まれたシークエンスだった。そこに登場していたダンローを映し出すことは、歴史的な象徴、シリーズの魂を招聘するようなものだったことは、非常に理解できるところなのだ。しかし、本作で彼が英雄的な行動をし始めると、やはり第1作の名シーンに、複雑な意味が加えられてしまうことになる。ここは顔見せ程度の出演が妥当だったのではないだろうか。
シリーズを総括するような演出、運命論的なテーマの提示は、『フォールアウト』でも、すでにある程度おこなわれていた。続く2部作は、ある意味でその詳細なやり直しと言っていいかもしれない。しかし、『フォールアウト』が途中までほぼノンストップで続いていく挑戦的な脚本でありながら、物語の終盤で、スマートなかたちでイーサンの運命を着地させていたことを考えれば、2部作の方の存在価値は、いささか揺らいでしまう。
クライマックスのアクションについても、本作では『フォールアウト』のヘリが複葉機に変わっただけで、シチュエーション自体はほぼ同じである。おまけに、運命論の要素として意図的なものとはいえ、敵役に訪れる災難も非常に似通っている。トム・クルーズのアクション自体はさらに危険なものになっていると想像されるが、純粋なアクション映画として観た場合、この繰り返しのような見せ場は、意外性がなくスリルが半減してしまっていると感じられた部分だ。
筆者は第1作からのファンで、全て劇場でシリーズ作品を鑑賞している。毎回、予想を覆す内容と、圧倒的な完成度、新たな可能性を提供してくれる『ミッション:インポッシブル』を楽しみにしてきた。今回の2部作には、ポリティカルサスペンスとしての新たな挑戦、サバイバルとしてのミッション解釈という新要素があり、緊張感を高めていたのは評価できる。だが、それが結局のところ『フォールアウト』というベースの付け足しにすぎないように見えてしまうのである。
世界の進化と崩壊を加速させていくAI、そして、トム・クルーズ扮するイーサンがデジタルに対してフィジカルで対抗するというテーマは、いまの時代に映画の持つ魅力を復権させるという意味において、映画ファンとして応援するしかない正当性を持っているのは確かではある。
しかし、その志に対して、本作が単体の作品として新味に欠ける印象があるという点においては、どうしても評価をためらってしまうところだ。その意味で前作を含めた2部作は、シリーズのなかで例外的な位置づけにあたる内容となった印象だ。いつでも新たな世界を見せてくれた奇跡のシリーズは、ついに奇跡ではなくなってしまったのかもしれない。
とはいえ、本作を悪しざまには言いたくないのは、これまで楽しませてくれた『ミッション:インポッシブル』シリーズ、トム・クルーズやキャストたち、クリストファー・マッカリー監督への、ファンとしての感謝の念があるから……と言ったら、甘いだろうか。またルーサーの演説も、もし説教めいたメッセージをシリーズの締めくくりに提示するのであれば、他人のことを考える心の重要性という、いまの時代にはこれしかないという結論へと着地している。イーサンのこれまでのミッションに、そういった魂を与えたいという意図も納得できるものだ。
本作は、筆者が期待したような、いつもの挑戦的な『ミッション:インポッシブル』ではなかったし、シリーズのうちで完成度の高い一作だとも言いづらい。だが、シリーズの一つの幕引きという意味において、劇中で「お疲れさま」を言うことのできる余裕を持った内容であることは確かであり、いま言うべきことを言葉で、そしてアクションで、トム・クルーズの全力疾走で表現した作品であったことは、疑いようがないだろう。
■公開情報
『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』
全国公開中
出演:トム・クルーズ、ヘイリー・アトウェル、ヴィング・レイムス、サイモン・ペッグ、ヴァネッサ・カービー、イーサイ・モラレス、ポム・クレメンティエフ、マリエラ・ガリガ、ヘンリー・ツェニー、ホルト・マッキャラニー、ジャネット・マクティア、ニック・オファーマン、ハンナ・ワディンガム、アンジェラ・バセット、シェー・ウィガム、グレッグ・ターザン・デイヴィス、チャールズ・パーネル、フレデリック・シュミット
監督:クリストファー・マッカリー
配給:東和ピクチャーズ
©2025 PARAMOUNT PICTURES.
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