『あんぱん』今田美桜と北村匠海のすれ違いが続く 竹野内豊の言葉が灯す温かな希望

嵩(北村匠海)からのプレゼントを拒んだのぶ(今田美桜)。お互いを想いながらも、価値観の違いが浮き彫りになる中、少女の淡い恋心が静かに物語を動かし始める。

連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合)第34話では、のぶと嵩、そしてメイコ(原菜乃華)と健太郎(高橋文哉)、それぞれの関係に少しずつ変化の兆しが訪れる。
のぶの頭の中には、嵩の「そんな先生、僕は嫌だな」という言葉が棘のように引っかかっていた。それは、自分の行動を真っ向から否定されたように感じたからかもしれない。あるいは、その言葉に込められた嵩のまっすぐな感情に、応えられない自分への後ろめたさだったのかもしれない。

2人の関係に入った小さなヒビ。心のどこかに生じたその微かな亀裂は、やがて互いの距離を静かに遠ざけていく。東京で芸術を学び感性を磨いてきた嵩と、愛国心を叩き込まれる日々の中で教師を目指してきたのぶ。歩んできた時間があまりにも違いすぎた。仲直りしたはずなのに、決定的な価値観のすれ違いは、そう簡単には埋まらない。
その頃、恋心に揺れるメイコは、健太郎から嵩とのぶが喧嘩をしていることを知らされる。「のぶ姉ちゃんはまっすぐで気が強いけんど、優しゅうて、うちにはこじゃんとええお姉ちゃんです」と明るく話すメイコ。そう、のぶだって、他人の行為を無下にするような女の子ではないのだ。そんなメイコに「よか女の子ったい」と微笑む健太郎。けれど、もちろん健太郎は、メイコが自分に淡い想いを寄せていることには気づいていない。無邪気な笑顔の奥に隠した揺れる気持ちに気づくこともなく、ただ“妹のような存在”として見ているのだろう。

それにしても、健太郎の何気ない言動に、敏感に反応してしまうメイコが微笑ましくて、それだけでお腹いっぱいだ。そんなメイコの初々しい恋模様は、まるで朝の光のように眩しくて、観ているこちらの頬も自然と緩んでしまう。それが報われるかどうかなんて、今はどうでもいい。ただ、誰かを好きになって、些細な一言や仕草に一喜一憂しているメイコが、愛おしくてたまらないのだ。
だが、そんな微笑ましいやり取りも、健太郎の一言であっさりと空気が変わってしまう。
「メイコちゃん、目がキラキラして、『のらくろ』みたいばい」
『のらくろ』とは、田河水泡による昭和初期の漫画で、野良犬の黒吉が軍隊に入って奮闘する姿を描いた名作だ。愛嬌のある黒い犬のキャラクターは親しみやすく、戦前から多くの読者に愛された存在ではあるが、女の子に対する褒め言葉としては、あまりに的外れだった。健太郎にとっては特に意味のないたとえだったのだろう。だが、女の子にとっては決して嬉しい言葉ではない。ましてや、好きな男の子からとなると、その衝撃は倍増する。

好きな人に思いを伝えたメイコに背中を押されて、のぶは嵩に謝る決心をする。だが、もう時はすでに遅し。嵩は一つ前の汽車で東京へ帰ってしまっていた。




















