『来し方 行く末』リウ・ジアイン監督が日本に向けてメッセージ メイキング映像公開

4月25日に公開される映画『来し方 行く末』で監督を務めるリウ・ジアインが、14年ぶりの新作についての想いを語るメイキング映像が公開された。
第25回上海国際映画祭で最優秀監督賞と最優秀男優賞を受賞した本作は、弔辞作家の日常を題材に、人々の人生模様や死生観を繊細に織り込んだヒューマンドラマ。『チィファの手紙』や『鵞鳥湖の夜』に出演したフー・ゴーが主演を務め、同居人のシャオイン役は、『西湖畔に生きる』に出演し、本作がフー・ゴーと三度目の共演となったウー・レイが演じた。監督を務めたのは、卒業制作『牛皮(原題)』で第55回ベルリン国際映画祭カリガリ映画賞と国際映画批評家連盟賞を受賞したリウ・ジアイン。長年の思索を重ねて熟成させた14年ぶりの新作となる。
主人公のウェン・シャン(フー・ゴー)は大学院まで進学しながら、脚本家として商業デビューが叶わず、不思議な同居人シャオイン(ウー・レイ)と暮らしながら、今は葬儀場での弔辞の代筆業のアルバイトで生計を立てている。丁寧な取材による弔辞は好評だが、本人はミドルエイジへと差し掛かる年齢で、このままでいいのか、時間を見つけては動物園へ行き、自問自答する。同居していた父親との交流が少なかった男性、共に起業した友人の突然死に戸惑う会社員、余命宣告を受けて自身の弔辞を依頼する婦人、ネットで知り合った顔も知らない声優仲間を探す女性など、様々な境遇の依頼主たちとの交流を通して、ウェンの中で止まっていた時間がゆっくりと進み出す。
北京生まれの映画監督リウ・ジアインは、現在は北京電影学院文学部で脚本制作の准教授を務めており、2005年に発表した長編デビュー作『Oxhide(英題)』では脚本・監督・主演の三役を担い、第55回ベルリン国際映画祭でカリガリ映画賞と国際批評家連盟賞を受賞。続く『オクスハイドII』(2009年)もカンヌ国際映画祭監督週間やロッテルダム国際映画祭のBright Future部門で上映されるなど、若くして国際的な注目を集めた。
それから14年。中国の国民的大スターを主演に迎えた本作は、静かに自身の人生と向き合う一人の男の物語であると同時に、長い沈黙を破って再びカメラを手にしたリウ監督自身にとっても、“再出発”の意味を持つ。
公開されたメイキング映像と特別インタビューでは、制作の舞台裏や本作に込めた想いが語られている。メイキング映像の冒頭では日本の観客に向けた特別メッセージが確認できる。その後エグゼクティブプロデューサーとして本作に携わったツォオ・バオピンとのエピソードから始まる。中国映画界の重鎮であり、フィルム・ノワールや犯罪映画の名手として知られるバオピンが、ある講義の中で語った「創作に伴う多くの問題に、怖がらず向き合いなさい。問題があるのではなく、それが創作なのだから」という言葉は、リウ監督の心に深く刻まれたという。十数年にわたり映画から離れていたリウ監督にとって、その言葉は支えとなり、「ツァオ先生は、いつも私を励まし続けてくれました」と感慨深く振り返る。
映像の中盤には、主人公ウェン・シャンが学生時代の恩師を訪ねるシーンも引用されている。「時々は仲間たちと連絡を取れ」「落伍者なので」「なら 落伍者の私に連絡しろ」。このやりとりは、リウ監督が准教授として実際に学生に投げかけた言葉がもとになっており、自身の経験がそのまま作中に息づいていることがわかる。「私も、ウェン・シャンと同じように多くの問題を抱えています。でも、彼が物語の中でひとつの答えにたどり着いたように、私自身もこの映画を通して答えを見つけることができました」と、どこか晴れやかな表情で語るリウ監督。
リウ・ジアイン コメント
前作『オクスハイドII』から14年ぶりの新作となり、これまでの実験的な作風とは異なるアプローチを持ちいた背景や経緯について
14年の間、生活の上でも多くの変化がありました。クリエイティブな仕事のこと、日々の暮らし、自分自身の性格を振り返ってみても、変わるものと変わらないものが常に入り混じっていると感じています。この映画の脚本を書き始めたのは2020年でしたが、実際に撮影を始めたのは2022年。その間に起きたさまざまな変化や、その時々に自分が興味を持っていたことが、撮影に反映されています。なので、作風の変化というのも、その時の自分の興味に一番ふさわしいものを採用したというのが正直なところです。今回も、ウェン・シャンにふさわしいスタイルを採用したというのが一番しっくりくる説明なのかもしれません。そして、実のところ、ウェン・シャンの性格というのは、ほとんど自分自身の性格のことなのです。このようなテーマの出会いというのは、まさに一期一会そのものだと思っていたので、ウェン・シャンのためにこの作風でいこうと判断しました。だから、次回作以降の作風についてはまだなにも決まっていません。次に出会うテーマに合ったものを採用するのだと思います。
本作を制作するにあたって、きっかけとなった出来事や影響を受けた体験
具体的な出来事があったわけではありません。映画に登場する北京動物園は、小さい頃によく遊びに行っていて、今でもそのときの記憶が鮮明に残っています。初めて行った動物園が北京動物園だったのですが、今でも私は、1983年に行ったときの動物園の雰囲気、園内の石の様子、竹の生え方、展示場の匂いにいたるまで、思い浮かべると当時の記憶がよみがえってくるように感じます。葬儀場に関していえば、普通の人にとっては特別な場所に思えるかもしれませんが、私にとっては幼少期から馴染みのある場所でした。小学生の頃に母方の祖父母が亡くなったときも、そこで葬儀が行われました。建物が少し変わったり、葬儀の形式が昔とは少し異なったりする部分はありますが、全体の雰囲気は今もほとんど変わっていません。一般的に、死者と関係のある場所というと、どこか特別で、日常とは異なる空間のように捉えられるかもしれません。でも、私にとってはむしろよく知っている、馴染みのある場所であり、特別なものとは感じていないのです。このような私の考え方は、他の人から見れば少し変わっていると思われるかもしれませんが……。このように、葬儀場は馴染みの場所として私の中に残っているわけです。そして、動物園も葬儀場には、いつも人がたくさんいるという共通点もありますね。
ウェン・シャンに自身を反映している部分について
ウェンと私が共通しているのは、どちらも「書くこと」と深い関わりを持っている点で、私たちの人生が重なる部分です。この共通点のおかげで、より良い物語を書きたいという思いが強まり、ウェン・シャンの原型が少しずつ私の中に現れ、彼と対話するようになっていきました。彼に近づいていく感覚があって、それが自然と物語の方向性を決めていきました。彼に名前を与え、サブプロットを書き始めました。物語の中でウェンに起こる変化は、過去数年の間に私自身に起きた変化と重なっていました。そのため、今回はより正直に自然体で書けたと感じています。

■公開情報
『来し方 行く末』
4月25日(金)より、新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー
監督・脚本:リウ・ジアイン
出演:フー・ゴー、ウー・レイ、チー・シー、ナー・レンホア、ガン・ユンチェン
配給:ミモザフィルムズ
2023年/中国/中国語/119分/カラー/1:1.85/5.1ch/原題:不虚此行/字幕:神部明世
©Beijing Benchmark Pictures Co.,Ltd
公式サイト:https://mimosafilms.com/koshikata/






















