金子雅和監督による新たな“川映画”の傑作 『光る川』が誘う唯一無二の映画体験

『光る川』が誘う唯一無二の映画体験

 金子監督の前作『リング・ワンダリング』(2021年)は、ひょんなことから主人公の青年(笠松将)が過去の世界へと迷い込むさまを描いたものだった。そして彼はその世界で、ほとんど忘れ去られてしまった人々の想いに触れる。この作品でも「水」が重要なモチーフとして登場するのだが、やはり最大のモチーフは、歴史や記憶や時間や想いが堆積する「土」だった。工事現場でアルバイトをしている主人公は、土を掘っているうちに、神秘的な体験をすることになるのだ。まさに「センス・オブ・ワンダー」というものである。

 この「センス・オブ・ワンダー」は、金子作品の最大の特徴であり、それは『光る川』にも通底している。山奥の淵に向かって川をさかのぼっていく少年・ユウチャもやはり、神秘的な体験をすることになる。流れる「水」というものが、人々の想いを宿しているというのは先述したとおりだ。そこで彼がどのような行動を取るのかまでは、ここでは言及しない。それはあなたの目で、いや、心で、ぜひたしかめてほしい。

 水面をたゆたう「木の葉」のように、古くからある言い伝えは「言の葉」として現代にまで流れてきたものが数多く存在する。迷信だと笑う人がいるかもしれない。けれどもそこにもやはり、誰かの強い想いがある。だからこそ、民間伝承というものが存在する。現在から過去へ、そして未来へと思いを馳せる。目に見えるもの、見えないものに思いを馳せる。そんな映画体験へと観客を導くのが、金子監督の作品であり、この『光る川』なのである。

 水はすべてを記憶している。水はあらゆることを物語る――。これはとある人からの受け売りの言葉なのだが、CGを一切使用せずに清流を捉えた『光る川』と重なり合うものだと思えるので、最後に添えておきたい。

■公開情報
『光る川』
3月22日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開
出演者:華村あすか、葵揚、有山実俊、足立智充、山田キヌヲ、髙橋雄祐、松岡龍平、石川紗世、平沼誠士、星野富一、堀部圭亮、根岸季衣、渡辺哲、安田顕
脚本・監督:金子雅和
音楽:高木正勝
共同脚本:吉村元希
美術監督:部谷京子
撮影:山田達也
照明:玉川直人
音響:黄永昌
スタイリスト:野口吉仁
ヘアメイク:鎌田英子、山下奈巳
助監督:土屋圭
カラーグレーディング:星子駿光
OP アニメーション:高橋昂也
原作:松田悠八(『長良川 スタンドバイミー一九五〇』より)
エグゼクティブ・プロデューサー:中谷克彦、酒井興子
企画・プロデュース:森岡道夫、福原まゆみ
プロデューサー:松本光司、片山武志
製作:長良川スタンドバイミーの会
制作プロダクション:プロジェクト ドーン
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業) 独立行政法人日本芸術文化振興会
2024年/日本/カラー/1.85:1/5.1ch /DCP/108分
©︎長良川スタンドバイミーの会
公式サイト:culture-pub.jp/hikarukawa/
公式X(旧Twitter):@re_river_movie

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