中村アンの中で変化した“演じること”への思い 「楽しいと思える瞬間に出会えるように」

現在放送中のNHK連続テレビ小説『おむすび』で朝ドラ初出演を果たした中村アン。役者デビューからまもなく10年が経ついま、彼女はどんな思いで演じることと向き合い続けてきたのか。『おむすび』蒲田役への取り組み方から、これからの展望も含めてじっくりと話を聞いた。
芝居が楽しいと思える瞬間に出会えるようになったのは最近

――出演発表の際には「感情をあまり表に出さないフラットな演技を心がけている」とコメントされていましたが、蒲田役を演じてみたご感想は?
中村アン(以下、中村):たとえばご飯を「メシ!」と言ったり、キャラクターが立つような強いセリフが多いんです。でも、実際に「飯食わしといて」みたいな外科医の先生もいらっしゃるみたいなんですよね。強く言っているわけではなく、日常会話で何気なく、という感じで。台本を読み始めたときは驚きもありましたが、だんだん「そういう人なんだな」と思うようになって。毎日手術をしっかり成功させることに力を注いでいるので、患者さんにも個人的な感情を持たない。愛情がないわけではなくて、本当に患者さんを助けたい一心の外科医なんだな、と思いながら演じていました。

――撮影では、朝ドラならではのスピード感も感じましたか?
中村:早いですね、やっぱり。カメラが5台もあって、「すごい、朝ドラってこんなにカメラがあるんだ!」とびっくりしました(笑)。日曜劇場のときにも4台くらいあって驚きましたけど(笑)、5台あるといろんな角度から一気に撮れちゃうんですよね。だから集中力が必要ですし、それもあってあっという間に終わってしまった気がします。(米田家の)みなさんは1年以上やられていますけど、私はそんなに同じ役を長くやったことがないので、次はもう少し長くやらせてもらうことができたら、また感覚が違うのかなと思っています。

――駆け抜けたような感覚?
中村:「お邪魔します」という感じでした(笑)。でも、だからこそ登場したときには「より印象を残したいな」というのはありましたね。
――『おむすび』の現場で印象に残っていることも聞かせてください。
中村:スタッフのみなさんが関西弁なので、いつもとは違う雰囲気を感じながら過ごしていました。それから、用語もちょっと違うんです。(芝居を続けながら一度撮影を中断して、少し間を空けて撮影を再開する)「白味(しろみ)」のことを「流し」と言っているのを聞いて、「どういうことですか?」って(笑)。NHK独特の用語みたいなんですけど、「ドライとりまーす!」というのも“撮る”のかと思ったら“取る(引き上げる)”という意味だったり、慣れない言葉が多くて新鮮でした。

――朝ドラならではの反響は届いていますか?
中村:両親がすごく喜んでくれました。でも、自分にはあまり実感がなくて、そんな中、現場に行くと大阪のみなさんがすごく温かく迎えてくれて。現場にはたくさんの写真が貼られていて、私の写真も撮って貼ってくださったりしました。「学校のような」と言っていいのかわかりませんが、みんなで作っているアットホームな感じがすごく優しくて、「これが朝ドラなのかな」と思いました。
――朝ドラということで、ご家族からの反響にもふだんとは違うものがありましたか?
中村:なんとなく違いますよね。朝ドラは昔からみんなが知っているし、毎日観ていると(登場人物に)どんどん愛着がわくじゃないですか。週1回ではなく毎日お話を追いかけられるのが純粋に嬉しいですし、自然と“知ってる人”みたいな気持ちになりますよね(笑)。

――中村さんの中で、特に印象に残っている朝ドラはありますか?
中村:家族で観ていた『ちゅらさん』(2001年度前期)は印象に残っています。私自身、それによって沖縄を知った気がしますし、Kiroroさんも好きですし、“朝ドラといえば”という感じはありますね。この仕事を始めてから観た作品で印象に残っているのは、『半分、青い。』(2018年度前期)です。ほかにも、コロナ禍にオンデマンドでいろいろと観ていました。やっぱり人が成長していく過程が見られたり、毎日「あとちょっと観たい」というところで終わるので(笑)、追い掛けるのが楽しいなって思いますよね。
――一方で、役者として感じる朝ドラの魅力についても教えてください。
中村:「朝ドラ」と聞くと背筋が伸びますよね。自然と身に付いちゃっているのか、なんとなくシャキッとしますし、嬉しさもあります。たしか30歳になる頃に、朝ドラのオーディションを受けたんです。20人くらいいて3人1組でお芝居をしたんですけど、そこで一緒になった女優さんと別の作品で共演して。「一緒にやったよね。どっちも出てなかったけど」みたいな思い出話もしました(笑)。

――朝ドラオーディションの思い出は、女優のみなさんにあるのかもしれないですね。
中村:A、B、Cの役を覚えなきゃいけなかったのに、当時のマネージャーさんから「Aだけでいい」と言われていて。実際に行ったら、みんなBとCも覚えていて「えーっ」と驚いたのも覚えています(笑)。服装も決まっていたはずなのに、何かの手違いで私だけデニムをブーツに入れたスタイルで、「ひとりだけ乗馬に行くのか!?」みたいな(笑)。たしか自己紹介と特技を披露したと思いますが、それを後から本人同士で喋ったというのも、いい思い出ですね。
――今回の朝ドラ出演をきっかけに、当時のことも思い出されたのではないでしょうか。
中村:当時は“何かを演じる”ということがあまりわかっていませんでした。少しずつお芝居に対する欲が出てきて、楽しいと思える瞬間に出会えるようになったのは、本当に最近なんです。なので、あのときとは全然違う気持ちで、朝ドラに出られてよかったなと思います。




















