『東京サラダボウル』“鴻田”奈緒の緑髪は決意の証か これまでの謎が次々と明らかに

『東京サラダボウル』鴻田の緑髪は決意の証

 スヒョンは鴻田に美術大学に受かって、いつか東京に行くのが夢だと話してくれた。ところが、スヒョンの父が密輸に関わったことで逮捕される。スヒョンを美術大学に行かせるのにお金が必要だったそうだ。店に来ていた客の会話から察するに、スヒョンの両親は娘を1人亡くしている。だから、その子の分までスヒョンにはやりたいことをやらせてあげたかったのではないだろうか。

 そうした事情も知らず、彼らと一度も関わったことのない人たちが、“在日韓国人”というひとつの物差しだけで判断し、負の感情を向ける。鴻田の行きつけである蕎麦屋の店前が、宴会騒ぎをしていたネパール人に荒らされてしまった時も、同じネパール人というだけで直接やったわけでもない人が住民から責められ、頭を下げていた。残念ながら、未だに日常生活やネット上で見かける光景だ。そうやって一括りにして相手を知ろうともしないのに、自分たちの文化やルールを押し付け、“日本人らしく”生きることを強要する人たちもいる。

 スヒョンもその空気をどこかで感じ取っていたのかもしれない。日本で生まれ育ち、日本で働いていきたいと思っていたスヒョン。その一方で、祖父が生まれた釜山を「もうひとつの故郷」と呼び、韓国の文化にも親しんできた。日韓両方のアイデンティティを大事にしていたのだと思う。

 けれど、それを許さない世界があるということを知ったスヒョンは、真っ白なキャンパスに「これ」と決めたひとつの色を載せるように、アイデンティティもひとつに絞ろうとしていたのだろうか。父が逮捕される直前、鴻田に見せてくれたスケッチブックにはおそらく日本の海が描かれていた。だが、スヒョンは思い直したように、その上から釜山の海の色を重ね、グラデーションを描き出す。

「海の色は違うけど、同じ海やけん。繋がっとると」

 2人はいつか、釜山の海を一緒に見に行くと約束(ヤクソッ)した。鴻田が釜山の海と同じ色で髪を染めているのは、もう二度と誰の手を離さないという決意の現れに思える。どう生きるかは、自分が決めていい。鴻田も、刃物を持った通り魔の男が赤ちゃんと母親に近づいていく場面に遭遇した時、2人を守ろうと決めた。間一髪で、警察官に助けられた鴻田は「よく決めたね、立ち向かうって。誰でもできることじゃないよ」と言われたことがきっかけで警察官を志したのだ。

 その警察官こそ、有木野の大切な人だった覚(中村蒼)。覚にとっても有木野は、我を忘れるほどに大切な人であり、2人は恋人だった。しかし、今はもう有木野の側に彼はいない。何の因果か、その喪失感を抱える有木野と、覚の言葉で警察官になった鴻田が出会った。前半戦で散りばめられていた謎が次々と明らかになっていく後半戦。ラストに登場した阿川警部補(三上博史)が鍵を握っていることは間違いなさそうだ。

■放送情報
ドラマ10『東京サラダボウル』(全9回)
NHK総合にて、毎週火曜22:00〜22:45放送
NHK BSP4Kにて、毎週火曜18:15〜19:00放送
再放送:NHK総合にて、毎週木曜24:35〜25:20放送
出演:奈緒、松田龍平、中村蒼、武田玲奈、中川大輔、絃瀬聡一、ノムラフッソ、関口メンディー、朝井大智、張翰、許莉廷、喬湲媛、Nguyen Truong Khang、阿部進之介、平原テツ、イモトアヤコ、皆川猿時、三上博史
原作:黒丸『東京サラダボウルー国際捜査事件簿―』
脚本:金沢知樹
音楽:王舟
メインテーマ曲:Balming Tiger
メインビジュアル・デザイン:大島依提亜
メインビジュアル・スチール撮影:垂水佳菜
演出:津田温子(NHKエンタープライズ)、川井隼人、水元泰嗣
制作統括:家冨未央(NHKエンタープライズ)、磯智明(NHK)
プロデューサー:中川聡子
写真提供=NHK

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「リキャップ」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる